なぜ今“生物多様性”が重要なのか  企業が取り組めることとは?

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なぜ今生物多様性が重要なのか 企業が取り組めることとは?

昨今話題に上ることの多い「生物多様性」。2022年12月には、カナダ・モントリオールでCBD-COP15(生物多様性条約第15回締約国会議)が開かれ、2030年までの新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されるなど、今まさに「生物多様性」が世界における重要なキーワードになっていると言えます。本コラムでは、そんな生物多様性の定義や現状、政府・企業の取り組みなどについて幅広くご紹介いたします。

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生物多様性とは

生物多様性とは、一言で表すと「地球上の生物がバラエティ豊かである」ということ。生物多様性の保全を目指す唯一の国際条約である「生物多様性条約」では、以下の3つのレベルに分けて多様性が定義されています。

(1)生態系の多様性

森、河川、干潟など、様々なタイプの自然が存在し、それらに適合した生物による生態系が存在していること。

(2)種の多様性

様々な種の生き物が存在しているということ。

(3)遺伝子の多様性

同じ種であっても体の大きさや形、模様や色などの個性があり、生まれる遺伝子のバリエーションが豊富であること。

生物多様性の現状

環境保全・自然保護を専門とする国際NGOであるWWFは、2022年10月に地球環境の現状についてまとめた『生きている地球レポート2022』を発表。その中で、生物多様性の損失は危機段階にあることを発表しました。

WWFの調査では、自然と生物多様性の健全性を測る指標である「生きている地球指数」(LIP)が、地球全体で見ると1970年から2018年の約50年間で69%も低下していることが分かっています。

生きている地球指数
出典:生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー |WWFジャパン

中でも、淡水域の「生きている地球指数」は1970年から2018年で平均83%も減少しており、特に深刻な状況になっていることが分かります。

淡水域の生きている地球指数
出典:生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー |WWFジャパン

また、IGES(地球環境戦略機関)は「IPBES生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」の中で、下記図のように森林・陸地・海洋・湿地・熱帯雨林など様々な自然資本が人為的な影響を受けていることを指摘しています。

自然資本への影響
出典:IPBES 「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」をもとに作成

生物多様性が脅威にさらされている原因

ではなぜ今、生物多様性はここまでの危機にさらされているのでしょうか?

その原因は、直接的要因と間接的要因に分けて考えることができます。まず直接的要因とは、乱獲や生息環境の喪失、外来生物の侵入、気候変動などの自然の変化を直接的に引き起こす要因のこと。たとえばルアーフィッシング用に放流されたとされているオオクチバスの持ち込みや、象牙密輸のためのスマトラゾウ乱獲は生物多様性減少の直接的要因に該当します。

一方間接的要因とは、人口動態や社会文化、貿易などの経済、制度や紛争などのこと。直接的要因の原因となるものを指します。

生物多様性の喪失要因
出典:「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて-

加えて、WWFの『生きている地球レポート2022』では、現在人類は地球1.75個分に相当する生態系資源を過剰消費しているというデータも報告されています。下図を見れば分かるように、1970年以降エコロジカルフットプリント(人間の地球資源に対する需要)がバイオキャパシティ(地球資源)を大きく超えており、中長期的に持続可能な状況であるとは言えません。

また、カーボンフットプリント*も緩やかに増加しており、このままでは2100年までに気温が約3.2℃上昇、気候変動等によって生物多様性へ悪影響が及ぶことが懸念されています。

エコロジカルフットプリントとカーボンフットプリントについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、気になる方は是非ご覧ください。

カーボンフットプリント(CFP)とは?注目されている理由や算定方法について紹介

*商品やサービスのライフサイクル全体を通して排出されるGHG(温室効果ガス)の排出量をCO₂に換算して表したもの

エコロジカルフットプリント
出典:生きている地球レポート2022 ー ネイチャー・ポジティブな社会を構築するために ー |WWFジャパン

生物多様性の喪失がもたらす影響

こうした現状は私たちにどのような影響をもたらすのでしょうか?ここでは地球全体への影響と、企業活動への影響の2つに分けてご案内いたします。

地球全体への影響

森林、草原、湿地、海洋など…あらゆる生態系から多種多様な生態系サービスの恩恵を受けている私たち。それらは、生活に必要不可欠な食料、医薬品、エネルギー、繊維に限らず、気候の調節や淡水の浄化、花粉媒介、土壌再生など私たちの暮らしの根幹を支えるものとなっています。

生態系サービス
出典:「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて-

IUCN(国際自然保護連合)の試算では、このような生態系サービスを経済的価値に換算すると、1年あたりの価値は33兆ドル(約49兆円)にも上るというデータもあります。

現在世界トップであるアメリカのGDPが約28兆ドル(約41兆円)であることを考えると、生態系の恩恵がどれほど大きく、生態系の損失がいかに危機的状況であるかが実感できるのではないでしょうか。

企業活動への影響

地球全体への影響の大きさから分かるように、生物多様性の喪失は企業活動にも大きな影響を及ぼします。なぜなら、製薬や農林水産業などの生産業を始めとして、原材料調達を自然資本に依存する企業は数多く存在するからです。

また、動植物や土壌は、保水・ろ過など水循環の一部を担っており、彼らによってもたらされるきれいな水資源を必要とする企業も数えきれないほどいることでしょう。

生物多様性の喪失は、これらの企業だけではなく、サプライチェーン上のすべての企業に広く影響を与えるため、間接的に言えば「地球上で事業を営むすべての企業にかかわる問題である」と言えるのではないでしょうか。

生物多様性保全のための取り組み

このように地球全体にも、企業活動にも大きな影響をもたらす生物多様性の喪失。今この喪失に歯止めをかけ、保全していくためにあらゆる取り組みが行われています。今回は国際的な取り組みと日本国内の取り組みの、2つの面から見ていきましょう。

国際的な取り組み

国際社会は1992年の「生物多様性条約」締結以降、様々な取り決めを行い、生物多様性の保全に取り組んできています。

生物多様性に関する国際的な取り組み

最近では、2022年12月に新たな生物多様性に関する世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」がCBD-COP15で採択されました。この枠組みは、2050年ビジョンとして「自然と共生する世界」、2030年ミッションとして「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」ことを掲げており、併せて2050年グローバルゴールと 2030年グローバルターゲットが設定されました。

昆明・モントリオール生物多様性の構造
出典:「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて-

特に経済活動を行う企業にとって大きく影響のある箇所が、上記図中の赤枠で示した「2050年ゴールB」と「2030年ターゲット15」。

「2050年ゴールB」では、生物多様性を持続可能に利用・管理し、自然への寄与を評価・維持・増強することが目標として定められました。

また「2030年ターゲット15」では事業者、特に大企業や金融機関に対して、生物多様性に係るリスク・依存や影響を適切に評価・開示し、持続可能な消費のために情報を提供することが求められ、生物多様性の関するレビューシステムが確立しました。

このような国際条約ベースの取り組みに加え、官民のESG 投融資等への関心の高まりを背景に、2021年6月にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が設立。組織の経済活動における、自然環境や生物多様性に関するリスクと機会の評価・開示フレームワークを提供する国際的なイニシアチブで、その存在感は昨今ますます大きくなっています。

たとえば2022年12月開催のCOP15ではISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、「気候変動開示基準を補完するために、TNFDなどをもとに自然生態系について段階的な開示の強化を研究する」と表明。

さらにISSBは現在、S1,S2に続くプロジェクトとして生物多様性、生態系及び生態系サービスを組み込むことを検討しています。また2023年9月にはCDPもTNFDフレームワークと連携することを発表。

こうした背景からTNFDはこの先企業にとって重要な情報開示のファクターになると予想されます。

日本の取り組み

日本では、新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」に対応して、生物多様性・自然資本を守り活用するための戦略として「生物多様性国家戦略2023-2030」が策定されました。

この戦略では、「2030年ネイチャーポジティブ(1)」の実現に向けた5つの基本戦略が掲げられ、生物多様性損失と気候危機の2つの危機への統合的対応や、「30by30目標(2)」の達成、自然資本を守り活かす社会経済活動の推進等を進めるものとなっています。

ネイチャーポジティブに向けた国家戦略
出典:「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて-

この戦略の中で特に注目すべきは、基本戦略3の「ネイチャーポジティブ経済の実現」。

ここでは行動目標として、一番上に「企業による情報開示等の促進」が掲げられています。実際政府は、2023年4月に事業者が実際に生物多様性に関する取り組みを行う際の参考となる、「生物多様性民間参画ガイドライン」の改訂版を公表。金融を含む事業者に関する生物多様性への依存と影響、そしてそれらを巡るリスクとチャンスについて解説しています。

また実際に取り組む際の「基本的プロセス」を明確にし、併せてTNFDやSBTs for Natureの例等も紹介しています。このような取り組みから、TNFD開示を国として進めていく政府の姿勢を読み取ることができるでしょう。

*1:ネイチャーポジティブ=生物多様性の損失を食い止め回復させること 
*2:2030年までに陸と海の30%以上を保全する目標

“企業”が生物多様性保全に取り組むメリット

このように国をあげて、企業の生物多様性保全への取り組みが推奨されている現在。もちろん取り組みを進めることで、企業自身もメリットを得ることができます。

中期的な経済効果が期待できる

まず、企業が生物多様性保全に取り組むことで、その企業自身、そして世界経済全体の中期的成長を実現することができます。

実際、世界経済フォーラム報告書「The Future of Nature and Business」(2020年)の報告では、ネイチャーポジティブ経済への年間2.7兆ドルの投資と移行で、2030年までに3億9500万人の雇用と年間10.1兆ドル規模のビジネスチャンスが期待できることが分かっています。

また同報告書では、現状として世界の生物多様性への対応は不十分であると言及。また世界のGDPの半分以上(44兆ドル)が、自然環境や生物多様性に依存していること伝えています。こうした背景からも、企業の多様性保全への参画は必須であると言えるでしょう。

企業価値の向上と成長に繋がる

また企業は、生物多様性保全の取り組みをTNFDで情報開示することで、自社の知名度・企業価値の向上、ESG投資などの成長機会や競争力を獲得することができます。現在、投融資の判断基準として財務・非財務の両方の視点が重視されつつあることから、事業活動において、生物多様性に対してどのような配慮を行っているかが重要となっている状況。その不作為は今後事業活動において大きなリスクとなる可能性があります。

また、事業内容が生物多様性に関係ないと思われる場合でも、分析や評価なしにその旨を主張することは説明責任の放棄とみなされかねません。

そもそも、サービス業などの生物多様性と関係が薄いと考えられる業種であっても、土地や水、資源、エネルギー等を全く利用していない、ということは稀です。そのため、その程度に差があるとしても、自社の事業活動が生物多様性と無関係であると主張することは難しいのではないのでしょうか。

以上のことから、企業が生物多様性保全に取り組むメリットと取り組まないリスクは明らかであると言えるでしょう。

企業の取り組み事例

では実際、企業は生物多様性保全に向けてどのような取り組みを行っているのでしょうか。以下、3つの事例をご紹介します。

事例① 住友林業株式会社

日本国内に約4.8万ヘクタール(国土面積の約800分の1)の社有林を保有し、PEFCと相互認証された日本の森林認証制度SGECを全社有林で取得しています。加えて絶滅が危惧される動植物のリスト「レッドデータブック」を作成。山林管理に従事するものに配布、教育を行い、施業時には適切な対処を行っています。

さらに多様な生物が生息する水辺では、「水辺林管理マニュアル」のもと適切な管理を実施。これら適正な管理の下での森林経営により、木材資源を利用しつつ、森林の公益的機能の維持に貢献しています。

事例② 日本製鉄株式会社

日本製鉄株式会社の事例
出典:海の森づくり | 生物多様性保全への取り組み | サステナビリティ | 日本製鉄 (nipponsteel.com)

磯焼けの一要因である海水中の鉄不足解決のため、製鉄プロセスの副産物である鉄鋼スラグを腐植土と混合することで、腐植酸鉄(鉄イオン)を長期間持続的に供給可能とした「ビバリーⓇユニット」を開発。

これを磯焼けした海域に設置することで、腐植酸鉄(鉄イオン)を人工的に生成・供給し、失われた藻場を再生しています。2004年に実証実験を開始し、これまでに全国38カ所に展開。海藻の再生による生物多様性の回復とそれに伴う漁獲高の増加等の効果を確認しています。

事例③ トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社の事例
出典:水環境インパクト最小化チャレンジ (global.toyota)

各工場で「水使用量の徹底的な削減」と「徹底的に水をきれいにして還す」ことで水環境へのインパクトを最小化。具体的には、雨水利用による工業用水利用量の削減、工程での水使用量の削減、排水リサイクルによる取水量の削減、高い水質で地域に還すことなどを推進することで、良好な水環境の創出や河川・海洋生態系の保全に貢献しています。

生物多様性に関する開示をお考えなら

このような取り組みが求められる一方で、現在は「そもそも自社と生物多様性の関係をどう考えているか」開示することも大切になっています。その開示におけるスタンダードなフレームワークが、先ほどご紹介したTNFD。ただ実際に開示しようとしたとき、下記のような壁にあたる企業様もいらっしゃるのではないでしょうか。

「対象範囲が広すぎてどこから取り組めばいいか分からない」

「そもそもTNFDをちゃんと理解できていない」

「投資家が注目するポイントを抑えて情報開示がしたい」

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弊社エスプールブルードットグリーンのTNFD開示コンサルティングサービスでは、TNFD提言に沿った情報開示を一気通貫でサポート。企業と自然の関係性が把握できる「LEAPアプローチ」に基づいて、企業様の代わりに分析と実務を代行いたします。

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まとめ

今回のコラムでは生物多様性と企業の関係性について、背景や具体的な取り組み例を踏まえてお伝えしてきました。今後企業活動を続ける上で、避けて通ることはできない“生物多様性の保全”。

現在の自然資本・生物多様性が危機的状況であること、企業が取り組む社会的意義とその他メリットについてご理解いただけたのではないでしょうか。企業の競争力のカギとも言える情報開示について、早め早めの取り組みのご検討をおすすめいたします。

【監修者のプロフィール】

 CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。

出典: 

ネイチャーポジティブ経済の実現に向けて. (2023, March 7). 環境省 自然環境局.  

はじめての 『生物多様性』~今おさえておきたいポイントをわかりやすく簡単に解説. (2023, March 8). WWFジャパン. 

生物多様性とは?その重要性と保全について. (2019, October 21). WWFジャパン. 

水環境および淡水生態系の保全について. (2019, December 12). WWFジャパン.  

生物多様性条約 COP15 の主要な決定の概要. (2022, December 22). 環境省. 

令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第3節 自然再興(ネイチャーポジティブ). (2023, June 9). 環境省.  

生物多様性ビジネス貢献プロジェクト. 環境省.  

国内社有林・海外植林地の生物多様性保全. 住友林業.  

44,000種以上の生物に絶滅の危惧がある。. IUCN RED LIST. 

生物多様性条約とは. 環境省. 

「2010年目標」について. 環境省. 

愛知目標(20の個別目標). 環境省. 

2. The Future of Nature and Business. (2020, July 14). WORLD ECONOMIC FORUM. 

GDP, Current Prices. (n.d.). INTERNATIONAL MONETARY FUND. 

アジアゾウについて. (2020, April 24). WWFジャパン. 

特定外来生物 オオクチバス. 環境省. 

ISSB は持続可能性の概念とその財務的価値創造との関係を説明し、自然生態系と公正な移行に関する研究を進める計画を​​発表. (2022, December 14). ISSB. 

ISSBが、今後2年間のアジェンダの優先度に関する意見募集を開始. (2023, May 4). ISSB.

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