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TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)とは、組織が自身の経済活動における自然環境や生物多様性に関するリスクと機会を評価し報告することを促す、2021年6月に設立されたイニシアティブのことです。
TNFDは多くの市場関係者や国際機関と協働して、自然関連リスクに関する情報開示フレームワークを開発しています。このフレームワークを通じて、組織が自然損失を食い止めるための行動に乗り出し、金融の流れが自然にとってポジティブな効果を生み出す世界が実現することを期待しています。
TNFD設立の背景には、多くの経済活動の自然環境への依存度の高さがあります。
世界経済フォーラムの推計によると、自然に対する依存度が中等度または高度に該当する経済活動は世界の経済の産出量の半分以上にあたり、その影響による生物多様性の喪失が懸念されています。
このような状況を受け、2019年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にて、資金の流れを自然保全・回復への活動に向けるためTNFDが着想されました
その後G7サミットでの「2030年自然協約」、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)での「昆明宣言」、「ポスト2020生物多様性枠組み」の採択などを経て、生物多様性に関する国際的な議論が進行するとともに、企業へ自然関連情報の評価・開示を求める動きが加速しています。
日本も環境省がTNFDフォーラムへの参画を表明するなど環境保全への取り組みに前向きな姿勢を示しており、国内においても今後企業は自然環境にマイナスな影響を与えている活動をプラスなものへと転換していく必要があるといえるでしょう。
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報や「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」(MD&A)情報に代表される非財務情報の重要性が高まる中で、
既に多くの企業が取り組んでいるサステナビリティ関連情報開示フレームワークに、TCFD(Taskforce on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)があります。TCFDとTNFDにはどのような違いがあるのでしょうか。
TCFDとTNFDの大きな違いは、焦点となる「課題」と、検討しなければならない「場面の範囲」にあります。
まず、TCFDにおいては「気候変動」が課題となり、気候変動が事業へもたらすリスクへの対応や環境負荷を抑制するための活動についての議論が主な焦点となります。
これらを検討するにあたっては、「CO2の排出量」という一つの指標からアプローチを進めていくため、主な排出源であるサプライチェーン(調達・製造・物流・販売・消費の過程)を見直すことが求められています。
一方、TNFDでは「生物多様性」を課題とし、自然資本全体に焦点を広げています。しかし自然環境はロケーションによって大きく異なるため、単一の指標では測ることができません。よってTNFDでは、地域特性を重視した情報開示が推奨されていることが特徴として挙げられます。
また、TNFDでは「ネイチャー・ポジティブ※1」の実現が謳われており、リスク対応だけでなく機会創造についても考えていく必要があります。そのため、サプライチェーンだけでなくバリューチェーン全体を見通した自然関連情報の開示が求められています。
※1 ネイチャー・ポジティブ…自然と経済活動の間にポジティブな相互関係を築くこと。言い換えれば、「自社の事業が発展すればするほど、自然環境にプラスの影響を生み出せるような状態」を作り出すことが求められています。
TNFDワークプラン(活動計画)では、TNFDの掲げる目標や7つの原則、提案するスコープを2021年~2023年の2年間で実行に移すためのロードマップが示されており、準備、構築、テスト、協議、公表、市場への普及という 6つのフェーズで構成されています。
企業や金融機関との協議を重ね、来年2023年には、TNFDもTCFDと同じようにガイダンスの形でフレームワークが完成し、広く賛同が推し進められることが見込まれます。
現在私たちにできることは、自然環境・生物多様性に関連した組織のリスクと機会への理解を深め、TNFDでの効果的な開示に向けて準備をすることです。
TNFDの動向を注視するだけでなく、既に公表されている評価ツールなどを用いながら、まずは事業活動が自然とどのような関係を築いているのか見直してみてはいかがでしょうか。
TNFD提言に賛同するメリットとして、
が挙げられます。
ESG投資とは、従来の財務情報に加え、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governanve)の視点を考慮した投資手法のことであり、近年その概念が世界的に拡大しつつあります。
日本国内においても、2015年に日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)※2 へ署名したことを機に、ESG投資の運用資産額は年々増加しています。
今後さらにESG投資が浸透していき、世の中が環境・自然資本に注目を集めるようになった場合、自然関連情報の開示は、組織が社会的価値や社会的評価の向上を目指すうえで欠かせない要素となっていくのかもしれません。早期からTNFD提言に賛同しておくことは、将来において大きなアドバンテージとなると考えられます。
※2 国連責任投資原則(PRI)…投資にESGの視点を組み入れることなどを掲げる機関投資家の投資原則。
これまで組織の経済活動では、ROI(Return On Investment:投資利益率)などをはじめとする、利益に特化した指標が重要視されてきていましたが、生態系の破壊に対する危機感や自然資本の保全意識の高まりを受け、今後はTCFDやTNFDで挙げられる指標にも注目していく必要があります。
TNFDはTCFDと比べ、新しい国際イニシアティブではありますが、自然や生物多様性が経済に及ぼす影響力は徐々に世界中で認識され始めています。気候変動はもちろん、生物多様性にも目を向け、自然環境と経済活動の間に有益な相互関係を築くための一歩を考えてみませんか。