カーボンニュートラル達成に向けた移行計画とは? – 移行計画のためのフレームワーク解説 –

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カーボンニュートラル達成に向けた移行計画とは? - 移行計画のためのフレームワーク解説 -

移行計画とは

移行計画とは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD: Task Force on Climate‐related Financial Disclosures)』において「気候関連リスクと機会に対する組織の事業戦略の一部であり、低炭素経済への移行を支援する一連の計画と行動を示すもの」と定義されており、
企業の2050年カーボン・ニュートラルの達成に向けた事業戦略を表すものです。

移行計画が生まれた背景

TCFDは2021年10月に移行計画についての追加ガイダンス を公表しました。
これまではシナリオ分析を実施して、自社における気候変動に基づくリスク機会の特定とその対応策の説明が重視されていました。そもそもTCFDとは、投資家を含むステークホルダーが、企業によって開示された情報に基づいて投資判断を下す上で重要な情報開示の枠組みでもあります。


金融機関や投資家などが投資判断していくにあたり、
・目標達成までどのように進んでいくのか
・企業が2050年カーボン・ニュートラル目標を含む気候変動問題に対応したとしても問題なく事業を継続していけるのか
という道筋を開示することが求められてきています。
これが移行計画誕生の背景です。

移行計画が注目されている理由

したがって、企業はもはや脱炭素化に向けた目標を公表することや、現在の取り組み状況を開示するだけでは不十分であり、現状から目標達成までの具体的な計画を示すことが求められてきています。


国ないし世界全体での温室効果ガス削減の目標設定などが加速する一方、企業においては、属する産業や地理的要因などに応じて、カーボン・ニュートラルへの『移行』に向けた具体的な経路の策定が気候変動対応の大きなテーマとなっているため、その経路を示した移行計画 の策定・公表が必須となりつつあります。


加えて移行計画は、企業がESG(環境・社会・ガバナンス)などを含む非財務情報開示を行うために統一された国際基準、IFRSのS2基準の中でも開示が求められてきています。IFRSのS1とS2はTCFDに代わる開示基準でもあり、世界レベルで開示状況を監視するとアナウンス。

今後さらに移行計画を含む開示の必要性が増すことは容易に想定できると言えます。

移行計画の周辺情報(ACTやTPT、GXリーグ)

しかし、移行計画の策定といってもその策定方法(フレームワーク)は複数存在しています。
今回はその中でも代表的なものとしてACT、TPT、TCFDで求められる移行計画の要求開示項目をご紹介します。


・【ACT】
ACTとは、フランス環境エネルギー管理庁ADEMEと国際的非営利団体CDPが共同開発した、企業の脱炭素化に向けた移行戦略の策定・評価の国際的イニシアティブです。
ACTのフレームワークにおける、移行計画の開示要求項目としては以下の8つの要素となっています。

ACTはCDPによって開発されたということから、CDPで求められている移行計画の要素を満たしたフレームワークとなっています。


・【TPT】
TPTとは、英国経済・財務省主導の下、企業の2050年ネット・ゼロ達成に向けた気候移行計画に関する開示要素を体系化し示している情報開示フレームワーク であり、2023年10月に最終版のフレームワークが公表されました。


TPTはGFANZ※ やISSBなどと協力して開示フレームワークが策定され、ISSB(IFRS S2)やTCFDの内容等を踏まえています。本フレームワークにおける移行計画の開示要求項目としては大きく分けて5つの要素があり、その中でもさらに細分化された19の項目で構成されています。

加えて、2026年からはイギリスの企業に対しTPT情報開示の法定義務化が定められており、今後の世界全体の移行計画の開示を促進する要因となりそうです。

※GFANZ…ネットゼロへの移行を目的に設立された銀行、保険、アセットオーナー、運用機関等のイニシアティブの連合体

・【TCFD】とは
TCFDでは、前述の通り、2021年10月に移行計画についてのガイダンスを公表されています。
TCFDのフレームワークにおける、移行計画の開示要求項目としては以下の要素となっています。

移行計画を作成するための方法

ここまで移行計画やその開示フレームワークについて述べてきましたが、どのような手順で移行計画を策定していくのか、TPT開示フレームワークをもとに説明します。
前述のとおり、TPT開示フレームワークで求められている開示要求項目は5つの大分類で構成されています。
策定手順は以下となります。

「1.再評価」では、TCFD情報開示の際に特定・評価したリスク機会や影響を与える関係者、GHG排出量の算定など、現状の企業の実態を再確認・把握します。今後のリスク機会となり得る事象や排出量を把握し、対応策の目的や目標の設定などSTEP2以降で検討すべき内容の土台を築き、現在の自社の立ち位置を再評価するSTEPとなります。

「2.戦略的野心の設定」では、移行計画策定に向け、取り組むべき優先事項や目標など、移行に対応し貢献するための戦略的野心を設定します。脱炭素戦略を一足飛びに推し進めることは難しいため、「段階的に何から取り組むか 」、「どこから優先的に削減していくか」を検討し野心的な目標を設定します。そして、その目標とする時間軸の将来情報や仮説を立て、ゴールまでの道筋を決定することが求められます。また野心的な目標を達成するためには企業全体の戦略の変革が必要となる可能性があることから、その影響を特定するSTEPとなります。

「3.行動計画の策定」では、目標を達成するための具体的な対応策や財務・事業計画を策定し、これらを実行するための組織構造や方針の検討をします。脱炭素に向けた対応策の実現可能性の特定をはじめ、対応策の投資計画や排出量削減の費用対効果など、時間軸を考慮した削減ロードマップの策定や財務計画の開示が求められ、削減ロードマップや財務計画は全社的な戦略との整合も必要となるので、各部署を巻き込んだ検討が必要になると考えられます。多大な労力が要るプロセスですが、移行計画の中枢となる部分です。

「4.行動計画の実行」では、これまで策定した移行計画の開示と、移行計画を達成するための行動をスタートするSTEPとなります。また移行計画の進捗状況のモニタリングが求められますが、社内指標から移行計画の監督を行うだけでなく、外部のステークホルダーとの対話を通じて、適切な開示・報告ができているか評価を受けることも有効です。そして、実行と見直しを繰り返し、移行計画や目標達成への信頼性を高めていくことが重要となります。

今後の移行計画の動向について

現状イギリスとフランスにおいて先進的な動きを見せていますが、前述でも示した通り、移行計画に関するイニシアティブが 乱立しています 。今後、一本化されていく可能性もありますが、各フレームワークの中で類似している項目を必要事項と捉えています。さらにTCFD提言により要求されている4項目(ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標)とも整合が取られています。 「TCFD情報開示の後、どのように動いて良いか分からない」、「目標設定したが具体的な削減策がない」などお困りごとございましたら、ぜひお問い合わせください。

参考資料
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)指標、目標、移行計画に関するガイダンス
CDP2022 気候変動質問書「気候移行計画」解説ウェビナー 2022年5月11日開催
ACT Framework
ACT  ACT Assessment methodologies
TPT-Implementation-Guidance-1
TPT-Disclosure-Framework
TPT-Summary-Recommendations

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