
2023年、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と表明しました。この言葉が示す通り、気候変動はもはや将来の懸念事項ではなく、今すぐ対策を講じるべき重大な経営課題です。
今や気候変動への対応は、従来のCSR(企業の社会的責任)活動の枠を超え、回避不可能なリスクに立ち向かうための「生存戦略」へと変化しました。本コラムでは、この危機的状況の中で求められる具体的な企業のロードマップについて解説していきます。
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SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」の定義は、「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じること」です。この「緊急」という言葉の重みを科学的に裏付けているのが、IPCC第6次評価報告書(AR6)になります。
報告書の中で科学者たちは、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことについては、疑う余地がない」と発表しました。これまでの評価報告書では、「可能性が高い」という曖昧な表現に留まっていましたが、今回は不確実性が大幅に削減され、地球温暖化の事態の深刻さを物語っています。
この科学的合意によりパリ協定が目指す脱炭素化の動きは、推し進めなければならない最優先の課題になりました。企業経営においても、気候変動問題を不確定なリスクとして捉えるのではなく、確実に来る未来への備えとして、事業戦略を再構築する必要性が高まっています。
2025年にUNEP(国連環境計画)が発行した『排出ギャップ報告書2025』の副題は『Off target(目標未達)』です。この言葉が示す通り世界はパリ協定の軌道から大きく外れています。各国のNDC(国が決定する貢献)が完全履行された場合の気温上昇予測は2.3〜2.5℃であり、昨年の2.6〜2.8℃から数値上は改善しています。しかしこの改善の正体は、算定手法の更新や政治的情勢の変動による誤差の範囲に過ぎません。
実態として、世界は実質的な進展を生み出せておらず、現状のままでは最大2.8℃の温暖化という壊滅的なシナリオに向かっています。さらに危惧すべきは、「1.5℃目標」に残された猶予が予想以上に短くなっている点です。現在の排出ペースが続けば、残存カーボンバジェット(炭素予算)は、2030年を待たずして枯渇すると予想されています。
日本の環境対応に対する国際的な評価は、我々が想像している以上に厳しい現状です。国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発表する『Sustainable Development Report(持続可能な開発報告書)』において、日本のSDGs目標13では、最低評価である「赤信号(大きな課題が残る)」が点灯し続けています。
なぜ、日本はこれほど目標13で低い評価を下されているのでしょうか。その最大の要因は、我が国が世界第5位のCO₂排出国であるという事実に基づいています。
この記録は、決して国や大企業だけの問題ではありません。国内の企業一社一社が当事者意識を持ち、自社の排出量削減という課題に正面から向き合うことが、今まさに求められているのです。
環境問題への対応は、単なるCSR活動ではなく、企業の存続をかけた経営課題へと変化しました。今、企業が直面しているのは以下の2点です。
それぞれ見ていきましょう。
物理的リスクとは、自然災害の発生などにより、企業の資産や事業活動に直接的な損害を与えるリスクのことです。そして、洪水の増加やサイクロンなどの急性リスクと、降雨や気象パターンの変化、平均気温上昇、海面上昇などの慢性リスクに分類することができます。
ここで企業が最も警戒すべきは、自社拠点が無事であっても、原材料の調達先が被災することで連鎖的に操業停止に陥る「サプライチェーン寸断」の危険性です。
この問題を防ぐためには、従来の自社中心の防災対策から視点を広げる必要があります。調達網全体を考慮したBCP(事業継続計画)を策定し、取引先も含めたレジリエンスの高い体制を構築することが、物理的リスクから自社企業を守るために大切な戦略となってくるでしょう。
「移行リスク」は、脱炭素社会へ移行する過程で生じる政策の強化やルールの変化、消費者の選好の変化によって生じるビジネス上のリスクです。
代表的な例として、カーボンプライシングによる直接的なコストの増加が挙げられます。日本では2028年度から、化石燃料の輸入事業者等に対し、化石燃料に由来するCO₂排出量に応じて「化石燃料賦課金」を徴収する制度が開始されます。
さらに警戒すべきは、多くの大企業にサプライチェーン全体でのCO₂排出量削減が求められている点です。対策が不十分な企業は優良な顧客や投資家から選ばれなくなり、市場で生き残れなくなるリスクが高まります。もはやSDGs目標13への対応は、企業の生き残りをかけた事業戦略ともいうことができます。
SDGs目標13において、企業に求められる気候変動対策には大きく2つの種類が存在します。それが、温室効果ガスを直接削減する「緩和」と、災害被害を最小限に抑える「適応」です。

緩和とは、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量を減らす対策です。具体的には、自社ビルや工場における省エネ活動や、再生可能エネルギーの導入などが挙げられます。
さらに近年重視されているのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点です。これは、原材料の調達から製造、使用、廃棄に至るまで、製品がライフサイクル全体で排出するCO₂を算定し評価する仕組みを意味します。こうした多角的なアプローチを通して、事業全体で根本的にCO₂排出量を削減していく姿勢がこれから先、大切になってきます。
適応とは、すでに進行している、あるいは将来予測される気候変動の被害を回避・軽減するための備えのことです。具体的には、沿岸地域で温暖化の影響による海面上昇に対応するための高い堤防の設置や、暑さに対応するためのクールビズ、作物の作付時期の変更などの対症療法的対策が挙げられます。
企業経営においても、この視点は極めて重要です。先ほども述べましたが、激甚化する自然災害を見据え、いかなる時でも事業を止めないBCP(事業継続計画)を策定しておく必要性が高まっています。このようなリスク管理が、企業のレジリエンスの強化に結びついているのです。
ここからは、企業が気候変動対策を実践するための具体的な実務ステップについて、SDGs目標13のターゲットごとに見ていきましょう。

SDGs目標13のターゲット1は、「全ての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する」ことを求めています。そして、企業が行うべきことは、自社に迫る危機を正確に把握する「リスク分析」の実施です。
効果的なリスク分析の手法として、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が推奨するシナリオ分析の活用が挙げられます。シナリオ分析とは、気候変動による物理的な被害や、環境規制の強化といった社会の変化を予測し、自社のビジネスにどのような影響が及ぶかを検討する手法を指します。この結果をもとにサプライチェーン全体のレジリエンスを高めていくことがSDGs目標13のターゲット1達成に必要不可欠です。
SDGs目標13のターゲット2は、「気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む」ことを求めています。これを企業に当てはめると、環境への配慮を単なる社会貢献ではなく、経営の戦略そのものに組み込む段階といえます。
ここで大切になるのが、自社の直接的な活動以外(事業者の活動に関する他社の排出)で発生する温室効果ガス(Scope3)を算定する作業です。
これらの算定結果を自社の経営計画におけるKPI(重要指標)に設定し、SDGs目標13のターゲット2が目指す計画的な脱炭素を前進させていきましょう。
SDGs目標13のターゲット3は、「気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する」ことを求めています。企業が取り組むべきは、社内への「環境教育」と透明性の高い「情報開示」の両立と言えます。
正しい情報発信で外部からの評価を高めることが、「SDGs目標13のターゲット3」達成に向けた確実なステップとなるはずです。
弊社では、GHG排出量(Scope1,2,3)の算定から情報開示までを幅広く支援しています。サポート領域はTCFDやTNFD対応、SBT認定など多岐にわたり、お客様それぞれの課題に寄り添った対応を行っています。
以下の事例ページでは、実際に企業がどのような背景で排出量算定や情報開示をするに至ったのか、進めていくうえで何が難しかったか、など生の意見を見ることができますので、ぜひご覧ください。
本コラムでは、SDGs目標13に基づく具体的な企業のロードマップについて解説してきました。気候変動への対応は、もはや一部の部署だけが担うCSR活動ではなく、企業全体で取り組むべき経営課題そのものです。不確実性の高い未来において自社の競争力を向上させるためには、自社の現状を正確に把握する必要があります。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。
A. 従来の「社会貢献(CSR)」ではなく、企業の「生存戦略」に変わったからです。
現在、企業は大きく分けて2つのリスクに直面しています。1つは、自然災害によるサプライチェーン寸断などの「物理的リスク」。もう1つは、炭素税導入によるコスト増や、対策の遅れによる顧客離れといった「移行リスク」です。これらを回避し、生き残るために早急な対応が求められています。
A. 原因を「減らす」か、被害に「備える」かの違いです。
企業には、この「緩和」と「適応」の両輪を進めることが求められています。
A. 自社への影響を正確に把握する「リスク分析」から始めましょう。
気候変動による災害や環境規制の強化が、自社のビジネスにどのような影響を与えるかを予測することが第一歩です(TCFDが推奨するシナリオ分析など)。
人材系上場企業を経て、ブルードットグリーン㈱に参画。コンサルティング事業の拡大を営業責任者として牽引。 1,000社を超えるプライム上場企業との脱炭素領域における対話を実施。上場企業の経営者、担当者が抱える課題が多種多様にわたる中、企業それぞれの状況に応じたサステナビリティ経営を伴走支援を通して日々サポートしている。
<出典>
・第1章 第六次環境基本計画が目指すもの.(2024.05)環境省.(参照2026.02)
・IPCC 第6次評価報告書 統合報告書Summary for Policy Makers(政策決定者向け要約)解説資料.(2023.03.24).環境省.(参照2026.02)
・Sustainable Development Report 2025.SDG transformation center.(参照2026.02)
・Emissions Gap Report 2025.(2025.11.04).UNEP-UN Environment Proramme.(参照2026.02)
・3-01 世界の二酸化炭素排出量(2022年).全国地球温暖化防止活動推進センター.(参照2026.02)
・TCFD「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言 最終報告書(サステナビリティ日本フォーラム私訳 第2版).(2017年6月).国土交通省.(参照2026.02)
・緩和策と適応策.国立環境研究所 地球環境研究センター.(参照2026.02)
・再生可能エネルギー及び水素エネルギー等の温室効果ガス削減効果に関するLCAガイドライン.環境省.(参照2026.02)
・事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2025年).(2025.06.20).帝国データバンク.(参照2026.02)
・JAPAN SDGs Action Platform.外務省.(参照2026.02)
・第2節 新たな枠組みを踏まえた緩和策.環境省.(参照2026.02)
・サプライチェーン排出量算定の考え方.環境省.(参照2026.02)