カーボン・クレジットは、一定の品質が確保されていなければ、「グリーンウォッシュ」と批判され、市場や企業の信頼性が損なわれるリスクがあります。本コラムでは、カーボン・クレジットにおける品質について、高品質な要件や問題となった事例を交えつつ解説してきます。
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カーボン・クレジットとは、温室効果ガスの排出削減量を企業間で売買する仕組みであり、カーボンニュートラルの達成に向けた手段として導入され、クレジットの創出者と購入者の双方にメリットがある制度です。しかし、取引されるクレジットが低品質であると「グリーンウォッシュ」と批判され、市場や企業の信頼性が損なわれるリスクがあります。
グリーンウォッシュに関する詳しい解説はこちらをご覧ください。
こうしたリスクを回避するために、高品質なクレジットには要件が設けられており、それらを満たすことでリスクを抑えることができます。クレジットの品質基準を定めている主な団体は以下のとおりです。
カーボン・クレジットの品質を決定する基準はいくつかありますが、本コラムではそのうち、「追加性」、「永続性」、「リーケージ」、「二重計上防止」、「測定・報告・検証の信頼性」の5つの項目について解説します。
「追加性」とは、温室効果ガス排出量の削減や除去の活動が、炭素クレジットの収入によって生み出されるインセンティブがなければ実施が困難な状態であることを指します。これは、「カーボン・クレジット」という制度があったから追加的に活動が実施された状態のことです。追加性は、J-クレジット制度においても重要な要件の一つとなっており、「追加性」に関する詳しい解説は以下をご覧ください。
次に、「永続性(Permanence)」とは、排出削減活動による温室効果ガスの削減や除去が恒久的に維持されなければならず、もしリスクがある場合は、それに対応するための対策を講じる必要があることを指します。つまり、クレジットの認証の期間が終了した後でも、削減活動などが継続的に行われていなければなりません。例えば、森林J-クレジットの場合、「永続性担保措置」という義務が設けられています。森林J-クレジットにおけるプロジェクトの対象期間は、8年から16年ですが、その後10年間は森林経営計画を作成し、事務局へ提出することが求められています。このように、クレジットの対象期間だけ活動を行っていればいいというわけではありません。
「リーケージ」とは、ある排出削減活動を実施することで、その活動の対象外の場所や監視されていない場所でかえって排出量が増え、結果的に地球全体の温室効果ガス排出量が減らない状態です。CCP(Core Carbon Principles)には、リーケージが発生する可能性のある例として、以下の4つが挙げられています。
続いてカーボン・クレジットは、二重計上禁止のルールがあります。削減活動によって得られた温室効果ガスの削減量を重複して計上せず、削減目標や目的の達成にあたっては一度だけしかカウントしてはいけません。例えば、企業Aが削減活動を行い、創出したクレジットを企業Bへ譲渡した場合、企業Aは報告書などで削減価値を上乗せした数値を報告する必要があります。
最後に、創出されるカーボン・クレジットは、測定・報告・検証のそれぞれの段階で信頼性が確保されていることが求められます。CCPでは、例えば「炭素クレジットプログラムにおいて独立した第三者の検証および検証に関するプログラムの要件がなくてはならない」や「排出削減量や除去量が、保守的なアプローチであり、科学的手法に基づいて定量化されたものでなくてはならない」などが要件とされています。
ここまで、カーボン・クレジットの品質に関する要件について解説してきました。ここからは、カーボン・クレジットの質に関して問題となった事例をいくつか紹介します。
オーストラリア政府が実施する人為的再生による森林クレジットプログラムでは、対象地域にもともと森林が存在せず、再生に適していなかったため、森林の被覆率の増加がほとんど見られないことが判明しました。これは、「永続性」や「測定・報告・検証の信頼性」の点で問題とされています。
発展途上国におけるクリーン・クックストーブのプロジェクトは、従来の煙の多い燃料を使った調理方法から、電気調理器などのクリーンな代替燃料への切り替えによって排出量の削減を目指すプロジェクトです。しかし、ストーブの使用頻度や利益の水増しが認められ、過剰にクレジットが創出されていたことが分かりました。これは「測定・報告・検証の信頼性」の点で問題とされています。
本プロジェクトは、ケニアの牧畜民が暮らす地域において、土地や家畜の管理を改善することによる炭素隔離を目指すプロジェクトです。しかし、この活動が何世紀にも渡り築き上げられてきた放牧のパターンを乱しており、遊牧のための草原へのアクセスが制限されていると主張し、ケニアの裁判所によってクレジット承認プロセスが停止されました。この炭素クレジットは、NetflixやMetaなどの企業も購入しており、危険にさらされる可能性があります。このように、プロジェクトの実施に対する同意やコミュニティの権利についても、炭素クレジットの信頼性と深く関わっています。
本コラムでは、カーボン・クレジットにおける品質について詳しく解説してきました。カーボン・クレジットは創出する側と購入する側の双方にメリットをもたらす制度です。一方で、今回取り上げた品質に問題があった事例のように、創出されたクレジットの品質に問題があった場合、創出側はグリーンウォッシュであると批判されるリスクがあります。また、そのクレジットを購入してしまった場合も同様です。CCPをはじめとする国際的な品質基準を参考にすることが、クレジットの信頼性を高め、グリーンウォッシュのリスクを最小限に抑えることにつながります。
弊社では、J-クレジットをはじめ、海外のボランタリー・クレジットについても幅広く取り扱っております。カーボン・クレジットに関するお悩みなどがありましたら、弊社までご相談ください。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
カーボン・クレジット・レポートを踏まえた政策動向. (2024. march). 経済産業省. (参照2025.09.19)
カーボン・クレジットにおける「追加性」とは?クレジットの信頼性を左右する基準を徹底解説!. (参照2025.09.19)