東海圏を中心に事業展開している総合建設会社である矢作建設工業株式会社様。東証プライム市場および名証プレミア市場の上場企業です。2025年3月にSBT認定を取得されました。建設業である同社は、認定取得にあたりどのような課題に直面し、どのように乗り越えたのか。またSBT認定取得は、上場企業である同社にどのような変化をもたらしたのか。総務部でサステナビリティ対応業務に携わるお二人に伺いました。
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“矢作建設工業株式会社様の事業とサステナビリティへの取り組みについて教えてください。”
マンションや物流施設などの設計・施工を行う「建築事業」や道路・トンネルなど社会基盤を整備する「土木事業」などを展開しています。特徴的なのは、一般的な建設会社が手掛ける事業に加えて、「不動産事業」も展開している点です。不動産事業では、地域や行政などと連携し、産業用地の開発に注力しており、例えば開発面積が約7万坪にも及ぶ「大府東海工業団地」や「静岡県磐田市下野部工業団地」などの実績があります。
当社は2021年4月に「矢作建設グループSDGs宣言」を行いました。2022年にはTCFD開示を実施し、数年にわたりGHG排出量算定に取り組みました。その後、環境スローガンとして「YAHAGI Blue ENGINEERING 〜未来に青空が続きますように〜」を掲げ、コーポレートカラーである「Blue」を守る活動を実施しています。具体的には矢作川や庄内川など河川の保全活動に注力しています。例えば当社の社名の由来である矢作川の河川敷には竹林が繁茂しており、放置すると河川に住む生き物の住処にも悪影響を及ぼしかねません。地元自治会等と連携して定期的に竹林の伐採・運搬を行い、美しい河川敷の景観維持に努めています。
当社ではサステナビリティ推進室のような専門部署は設置しておらず、TCFDやCDPを含むサステナビリティ対応全般については総務部が中心となって取り組んでいます。SBT認定取得についても、取得の背景の一つである「投資家とのやり取り」の窓口を担う総務部が担当しました。
“SBT認定を取得した背景は何でしょうか。”
SBT認定取得が国土交通省の評価項目に追加されたことも背景の一つですが、それだけではありません。当社はSDGs宣言以降、TCFD開示やGHG排出量算定などの取り組みを進めており、総務部としては「そろそろSBT認定を取得しよう」という機運が高まっていました。加えて機関投資家から「SBT認定取得の見通しは?」という声もあり、SBT認定に対する社会的な要請も強まっていることを実感していました。しかし、社内でSBT認定取得の議題を挙げると、当初は「業務負担が増すのではないか」「そもそも現実的に取得は可能なのか」などの慎重な声が多く寄せられたのです。最初は、投資家と直接やり取りをしている総務部と他部署との温度差があることを強く感じました。
ただ、当社が身を置く建設業界は環境意識が高い企業が多い業界です。取引先の姿勢や同業他社の取り組みなどの共有を通じて取得に向けた機運が高まり、こうした社内の変化を背景に、SBT認定を取得するための本格的な取り組みが始まりました。
“支援企業としてエスプールブルードットグリーンを選ばれた理由は何でしょうか。”
取り組み当初より、専門的な企業から支援を受ける方針でした。それは、仮に専門知識を持つ人材が取り組んだとしても、SBT認定取得までに「最低3ヶ月以上はかかる」と認識していたためです。加えてSBT事務局とは英語でやり取りをする必要があり、専門部署もない当社が、通常業務と並行して認定取得に取り組むのは現実的ではありませんでした。
エスプールブルードットグリーンを選んだ理由は、SBT認定取得に先立ってご依頼していたCDP回答支援での安心感のあるサポートが印象的だったためです。同社への依頼はCDP回答支援が初めてでしたが、説明の分かりやすさやスムーズな進行に、初回のミーティングの時点で「エスプールブルードットグリーンなら大丈夫だね」とメンバーの認識が一致したことをよく覚えています。また当社と誠実に向き合ったうえで、「企業としてこういうスタンスは◎、逆にこういうスタンスは△です」「今後は○○を目指しましょう」とはっきり伝えていただけた点も、大変分かりやすく印象的でした。さらにミーティングを重ねる中で、我々が「前回聞いたかも…」と感じつつ投げかけた質問にも、いつも嫌な顔一つせず真摯に回答いただけた印象です。今までの支援を通して、こうしたスタンスはどの担当者にも共通していると感じます。
また、CDP回答を通じて、リソース的にも当社が注力すべきタスクはデータ集めおよび最終確認に絞るべきだとも感じていました。その点、エスプールブルードットグリーンであれば、もちろん当社と連携しながらではありますが、その他のタスクのアウトソーシングが可能です。リソースの観点からもエスプールブルードットグリーンにご依頼することが最適だと判断しました。
“エスプールブルードットグリーンの支援を受けられた感想をお聞かせください。”
エスプールブルードットグリーンには「①Scope1,2,3排出量の算定、②SBT基準に準拠した削減目標の設定、③SBTiへの申請および審査対応」という3つのステップでご支援をいただきました。中でも特に当社が相応のリソースを割かなければならなかったのが「①Scope1,2,3排出量の算定」です。SBT認定取得のためには基準に準拠した算定が求められるものの、当社がこれまでに実施した算定は基準に準拠できていないものもありました。そのため改めて算定を実施しましたが、当社はプロジェクトごとに様々な企業が関わる建設業を展開しており、グループ会社も存在することから“現場の”データ収集が難しく、「いかに各部に負担をかけない方法で協力を依頼するか」が重要でした。
その中でエスプールブルードットグリーンは、当社の実情に沿った算定方法の提案のうえ、「このような順序で進めれば良い」という道筋を整えてくれたのです。加えて「どのくらいの粒度で算定するか」を検討する際にも、今後の取り組みを見据えて「矢作建設さんの場合、極力細かい項目に分けて算定した方が良いですよ」とアドバイスいただきました。検討当初はもう少し大まかに算定する道も視野に入れていましたが、算定し終えた今振り返ってみると、当社が継続的に分析や効果測定をするためには細かな算定が必要だったと感じています。正直SBT認定取得にあたっては、こうした申請までの準備フェーズが最も大変でしたが、エスプールブルードットグリーンにうまく舵取りをしていただきながら、進めることができました。
“サービス導入の成果と、その後の波及効果についてはどうお考えですか。”
成果の一つとしては、SBT認定取得を投資家の方に「良い取り組みですね」と評価いただけたことが挙げられます。加えて同業他社からも「どうやってSBT認定を取得したのですか」というお問い合わせも受けるようになりました。SBT認定取得を通じて、社会全体のサステナビリティ意識の高まりを感じましたし、もしかすると「上場会社だからやらなければならない」というフェーズは、もう抜けつつあるのかもしれないと考えています。
一方社内で生じた効果としては、サステナビリティ意識の醸成が挙げられます。SBT認定取得により、社内に対しても「2022年度を基準とし2030年度までに、Scope1,2で-42%、Scope3で-25%を目指す」という明確な目標を通知できました。これまでは、主に総務部や経営層がサステナビリティ対応の意義を認識していましたが、数値目標を設定したことで、直接対応に関わらない各部署にも「排出量を削減しなければならない」という意識が徐々に広がってきていると感じています。
“最後に今後の取り組みについて意気込みをお聞かせください。”
大きな目標としては、社会的な責任にこたえられる企業でありたいと考えています。そのために今後は、サプライチェーン全体の連携にも力を入れていく予定です。当社は創業時より東海圏に根付き、お客様やお取引先、地域の方々からの信頼を得てきました。そうした歴史も活かしつつ、今後は一層連携を強化しながらサステナビリティ対応を進めたいと考えています。加えて建設業は、環境と密接に関わる業種です。災害対策や住みやすい街づくりを通して社会的責任を果たすのはもちろん、社会全体のサステナビリティ意識の発展にも貢献していけたらと考えています。
また「誠実・進取・創造」(誠実進取で自ら創造し、常に社会の要請にこたえる事業を行う)を企業理念に掲げる当社にとって、サステナビリティ対応を通して社会要請にこたえることは理念に合致した行動であり、社員の誇りにもつながると考えています。社員がしっかりと腰を据えて成長し、当社自身が発展していくためにも、サステナビリティの視点は今後も持ち続けていく方針です。
[企業紹介]
矢作建設工業株式会社:https://www.yahagi.co.jp/