自動車、家電・工具、音響映像機器などに活用される小型直流モーターの製造販売に特化した事業を展開されている、マブチモーター様。サステナビリティ対応は元々、経営理念をベースに取り組まれていた一方、情報開示については課題もあったと言います。そんな同社はどのような経緯をたどり、一歩先を行く排出量算定を実現したのでしょうか。サステナビリティ対応業務に関わる皆様にお伺いしました。
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“マブチモーター様の事業とサステナビリティへの取り組みについて教えてください。”
当社は「国際社会への貢献とその継続的拡大」という経営理念のもと、小型直流モーターの製造販売に特化した事業を展開しています。特徴は、標準化戦略に則り小型・軽量・高効率で高品質なモーターをリーズナブルな価格で提供していること。扱うモーターは自動車をはじめ、家電・工具、音響映像機器などに活用されており、現在は売上の7割以上を自動車電装分野が占めています。また1964年と早期から海外に進出していることも、当社の特徴の1つです。現在では各海外拠点の地産地消を推進する「世界5極事業体制」を確立し、モーター販売における海外販売比率は約90%となっています。加えて健康・医療分野や移動体・協調ロボット等の用途での開発や販売を強化しています。
当社では世の中の動きに合わせて、2018年頃からサステナビリティ対応の話題が上がるようになりましたが、 初めての取り組みとなる一方で、特に抵抗感はありませんでした。というのも当社には、元々サステナビリティの考えが根付いていたからです。たとえば製品開発では小型化・軽量化することで環境負荷を低減させたり、人を最も重要な経営資源と位置づけ、社員が活躍できる組織づくりや人材育成を推進したりしています。こうした意識は、創業時から「社会課題の解決」や「人々の安全で快適な生活への貢献」による企業価値向上を目指してきた当社にとって当たり前でした。そのため世の中の状況と合わせつつ、経営理念の延長線上でサステナビリティ対応を始めることができたのです。
ただ、そうしたサステナビリティ対応の最新の動向や制度に関する十分な知識を持っているメンバーはほとんどおらず、「様々なイニシアティブの概要」や「ガイドラインをどう読み解くべきか」の理解が不足している点に課題を感じていました。
“支援企業としてエスプールブルードットグリーンを選ばれたご理由と、実際に活用してみた感想を教えてください。”
「専門的な企業の支援を受けたい」という思いは、取り組み当初からありました。というのも気候変動に関して専門知識を持つメンバーがいなかったため、自分たちだけでは「気候変動に関する対応をどう捉えたら良いのか」「TCFDのシナリオ分析は何から手を付ければよいのか」分からなかったのです。複数ある支援企業の中でエスプールブルードットグリーンを選んだ理由は、当社の状況を理解した上で最適な提案をしてくれて、説明も非常に丁寧で分かりやすかったからです。お話を聞く中で「信頼できるな」と感じ、まずはTCFD開示のサポートをお願いしました。
さらにその次の年には、LCA(ライフサイクルアセスメント)算定も支援してもらいました。検討の際は複数社から話を聞きましたが、当社の状況にぴったりはまったのがエスプールブルードットグリーンのアドバイザリー支援。実は当社では既に独自の方法で算定をして、自社製品の使用によりライフサイクル全体におけるCO₂排出量がどのくらい減るか調べていました。ただその一方で、算定に活用していたデータベースが無料版だったり、第三者検証は受けていなかったりと不安があったのも事実です。そのような中で、これまでの算定が適切なのか手頃な価格でレビューできると提案してもらい、エスプールブルードットグリーンに依頼することを決めました。
これまでTCFD開示をはじめ、LCA算定やGHG排出量算定、SBT認定など多くの分野で依頼しましたが、どの支援でも共通していたのはプロセスを詳細に明示して、当社の考え方や現状を確認しながら柔軟なサポートをしてもらえた点です。たとえばTCFD開示支援では、「このタイミングで社内の承認を得てください」「○日までに××部門からこの情報を入手してください」など行動レベルで進め方を教えていただけました。加えて、LCA算定では「まずはライフサイクルフローを書いてみましょう」と、我々の現状を整理するとことから始めてくれたおかげで現状を明確に把握でき、やるべきことへの理解が深まりました。
また初歩的な質問にも、しっかり向き合って回答してくれるのも嬉しいポイントです。さらに回答の際には、各省庁が発行している資料など信頼性のある情報を併せて提示してくれます。この分野は未確定な情報が多いからこそ、そういった対応に安心感を覚えました。支援を依頼して本当に良かったと思っています。
“2024年にはScope3算定方法の改善もサポートさせていただきました。取り組みまでの経緯について教えてください。”
当社は2022年、初めてScope1,2,3のすべてを算定しました。その背景としては、やはりお客様をはじめとしたステークホルダーの動きがあげられます。明確で厳しい要請があったわけではありませんが、お客様の機運の緩やかな高まりを感じ、Scope3まで算定することを決定したのです。2022年の算定では見える化を目的とし、経理データをもとに算定する手法を用いました。この手法は消費データ手法と呼ばれ、算定手法の中でも手を付けやすくコストも抑えられるため、多くの企業で使われていると思います。ただその一方で、当社としてはデメリットも感じていました。というのも消費データ手法の場合、値上げや為替変動があるとそれに比例してCO₂排出量も変動してしまうのです。CO₂排出とは全く関係のない要因で排出量が増加するのは避けたいと感じつつ、最初からすべてのサプライヤーの一次データを収集するのも現実的ではありません。そのため当社では、Scope1,2,3の算定を始めた当初から「まずは消費データ手法で現状を見える化して、段階を踏んでCO₂排出量を精緻化していきましょう」という方針を決めていました。
エスプールブルードットグリーンの支援を受けたのは、消費データ手法から算定手法を見直すタイミングでした。当初はCO₂排出量の精緻化に取り組んでいる企業は少なく、本当に手探り状態のスタートでした。そのため我々も「サプライヤーが公開されている一次データを一部使うか」「重量など金額以外の原単位を用いて算定するか(平均データ手法)」迷っていたのです。ただ、希望の開示スケジュールもお伝えしながら相談する中で、【消費データ手法→平均データ手法→混合手法(平均データ手法と一次データを組み合わせた算定方法)】と徐々にステップアップしていくのが適切だろうと話がまとまり、2024年に取り組みを開始しました。
“サービス導入の成果と、その後の波及効果についてはどう感じられていますか。”
まず、外的な効果としては、お客様からの質問に対してスムーズに回答できる点があげられます。実は先日欧州のお客様がCFP(カーボンフットプリント)に関する話がしたいといらっしゃったのですが、エスプールブルードットグリーンの支援を受ける中で培った知識のもと、滞りなく回答できました。お客様にも「きちんと取り組みが進んでいる」という印象を持っていただけたと認識しています。お客様や同業他社の動きを見て始めた取り組みでしたが、その中でも着手したのが早かったからこそ得られた効果だと感じています。また、TCFDやGHG排出量についての情報開示が充実した点も効果が大きく、投資家様をはじめとするステークホルダーへの説明もより会社の実態を表した開示ができるようになりました。
一方、内的な効果としては、社内理解の促進があげられます。支援中にいただいた資料は、社員向けに実施しているサステナビリティ教育や他部署への説明にも活用しています。直接支援を受けているのは我々サステナビリティ担当者ですが、教えてもらった知識やノウハウは社内にも広く浸透しています。
加えて消費データ手法→平均データ手法と適切なステップを踏めたことで、協力が必要な購買部門との関係性が密になったという効果も。たとえば消費データ手法の場合は既にある購買データを活用できますが、重量データは新しく作らなければいけなかったり、抜け漏れがあったりします。さらに今後一次データを用いた算定を実施する際にも、購買部門の協力は必要不可欠です。算定レベルの適切なステップアップによって、算定を進めやすい関係性が築けました。
“最後に、今後の取り組みについてお聞かせください。”
当社は、経営計画2030でも示している通り、財務指標と将来の財務に貢献する未財務指標の双方を高めることで企業価値を向上させたいと考えています。実は当社ではサステナビリティ関連の指標を「未だ財務的に貢献していないが、未来の業績に寄与する指標であり、財務指標同様に重要である」という意味を込め、“非”財務指標ではなく、“未”財務指標と呼んでいるのです。そのためサステナビリティ対応は今後さらに加速させたいと考えています。ガバナンスにおいて未財務指標を含む経営計画2030で掲げている指標の達成率を役員報酬にも反映させており、全社一丸となって推進できるような体制づくりを進めています。
8つある未財務目標の中でも、カーボンニュートラルに関連する「CO₂排出量削減率」や「サステナブルプロダクツの売上高成長率」は、世の中の流れも鑑みて特に注力していくべきと考えています。やはりメーカーである以上、製品を通じて社会課題を解決していくことが最も重要な役割だと思うのです。サステナブルプロダクツの開発や使用する資源の削減などで貢献していきたいと考えています。
ただこうしたカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めるためには、サプライヤーの協力が必要不可欠。そのため今後は、サプライヤーとの連携も重要なテーマになってくると思うのです。サプライヤーの窓口は購買部門が担っているので、現時点では直接コミュニケーションを取ることはありませんが、今後はサプライヤー説明会や算定方法の勉強会なども計画し、しっかりと連携したいと考えています。
[企業紹介]
マブチモーター株式会社:https://www.mabuchi-motor.co.jp/