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本ホワイトペーパーでは、EUにおける規制の中でも弊社のお客様からも相談の多い「CBAM」「EUDR」「欧州電池規則」についてまとめて解説しております。内容の難しいEUのサステナビリティ規制をまとめて勉強したい!という方は、ぜひ上記のボタンをクリックしてお申し込みくださいませ。
2023年6月29日、EUにて森林破壊と森林劣化に関する新しい決まり「欧州森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation/以下EUDR)」が発効されました。この規則はEU市場で販売、もしくはEU市場から輸出される対象品が「森林破壊に関わっていない」と証明することを義務付けるもの。大企業に対しては2024年12月30日から、中小企業に対しては2025年6月30日から適用が開始されます。
EUDRが発効された背景にあるのは、「森林伐採・劣化が、気候変動と生物多様性の損失に大きく関わっている」という事実。実際地球規模の森林破壊により、何百万もの人々の健康、命、生計に壊滅的な影響が出ているのです。
ちなみに国連食糧農業機関 (FAO) は、1990年から 2020年の間に4億 2,000万ヘクタール(EUよりも広い面積)の森林が、森林伐採により失われたと推定。また気候変動に関する政府間パネル (IPCC) も、温室効果ガス総排出量の23%が農業・林業・その他の土地利用に由来すると言及しました。さらにそのうちの約11%は森林およびその他の土地利用によるもので、ほとんどが森林破壊に起因すると推定。そのためIPCCは「森林破壊を止め生態系を回復することが、風力・太陽エネルギーの迅速な導入の次にCO₂レベルを下げる効率的な方法である」と述べています。
このような背景のもと発行されたこの規則では、以下3つの目的が掲げられています。
…EU内で購入・使用・消費される該当製品が、EUおよび世界全体の森林破壊・劣化の一助にならないようにする。
…EU内での該当商品の消費と生産によって生じる排出量を、少なくとも年間3,200万トン削減する。
…森林劣化だけでなく、EUDRの対象となる商品生産のための農業拡大によって引き起こされるすべての森林破壊に対処する。
これら3つの目的を達成するためEU市場で販売、もしくはEU市場から輸出される対象品は、下記2つについて証明することが求められています。
■2020年12月31日以降に森林伐採または、荒廃した土地で生産された商品でないこと。
■生産国の法律に従って生産されていること。
上記要件のいずれかを満たさない場合、それらの製品をEU市場で販売・EU市場から輸出することはできません。
ではこれらを証明するために、具体的にはどのようなステップが求められているのでしょうか?この項目では「森林破壊に関わっていないこと」を証明するための、3つのステップをお伝えします。
…森林破壊に関わっていないか確認するためには、EUに出品される商品とそれが栽培された土地との正確な関連付けが必要。そのため、土地の位置座標を取得する必要があります。
…Step1で取得した「商品の生産に使用された土地の情報」にEUがアクセス。衛星監視ツールやDNA分析を利用して検査を実施し、製品がどのような土地で作られたのか確認し、リスクを分析・評価します。
===具体的な評価方法===
リスク評価に使われるのは、“ベンチマークシステム”。EU内外の国や地域ごとに森林破壊・劣化に関するリスクをレベル分けするシステムです。「高・標準・低」の3つのリスクレベルがあり、事業者や加盟国当局が検査や管理をするための具体的な義務レベルを決定。このレベル評価を踏まえ、「高リスク国」には監視を強化し、「低リスク国」に対してはデューディリジェンス(調査)を簡略化します。EUでは2023年6月29日時点で全ての国を「標準」に設定。2024年12月30日までに「高・標準・低リスク国」のリストに振り分ける予定です。
EUはデューディリジェンス(調査)後、本規則に反するリスクが存在しない、またはリスクが取るに足らない程度であると結論付けられた該当商品だけに、市場への輸出が許可されるべきであると述べています。
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…Step2にて特定されたリスクに、適切な緩和措置を講じます。
★ポイント★人権への配慮も必要
また森林以外に、下記2点についても確認する必要があります。
【1】企業は該当商品が人権を含む生産国の関連法に準拠していること
【2】影響を受ける先住民族の権利が尊重されていること
ちなみに【2】については、生物多様性に関するフレームワーク“TNFD”でも同じ内容の開示が必要。(ガバナンスにて、先住民族や地域コミュニティに関する人権方針やエンゲージメント活動を説明)そのため「TNFDに沿った情報開示をすることは、EUDR対応にもつながる」と言えます。
前述した内容の提出方法について、EUは2024年12月30日までに情報システムを構築予定。該当する事業者はシステムを通じて、まずは事前に宣言書を提出しなければなりません。その宣言書では、対象商品が生産された農地までさかのぼって確認し、「森林伐採や森林劣化がない農地で生産されたこと」の証明が必要。またその後も、規則に順守していることを毎年公的に報告することが求められます。ちなみに中小企業については、大規模事業者に宣言書の作成を依頼することが可能です。
そんなEUDRですが、対応が求められるのはどのような事業者なのでしょうか?この規則では下記のどちらかに当てはまる事業者が、対象として定められています。
■EU域内で設立された企業の場合
…商業活動の過程で、対象商品を「EU市場から輸出する」もしくは「EU市場に供給する(※)」法人&個人
■EU域外で設立された企業の場合
…対象商品をEU市場で最初に供給する(※)法人&個人
※「供給する」について、原文の表記は「EU市場に出す=EU市場で入手可能にする」。簡便に示すために、弊社にて言い換えております。
設立がEU域内であるか域外であるかにより違いがあるため、EU市場へ商品を輸出している場合は「自社がEUDRの対象か」しっかり確認しておく必要があります。
次は対象商品について、ご紹介。対象となる事業者が以下の製品および商品をEU市場に輸出または販売する場合、生産国を問わず規則の対象となります。
これらは評価の結果、ヨーロッパでの生産と消費が世界的な森林破壊と森林劣化に最も影響を与えているとされ、規則の対象に。 ただ上記製品および商品は、定期的に見直されます。
ではEUDRに違反した場合、どのような罰則が科せられるのでしょうか?具体的には、以下の5つが挙げられます。
【1】EU域内での年間総売上高の4%以上の罰金
【2】当該商品&当該商品の取引によって得た収入の没収
【3】の公的調達プロセスおよび公的資金へのアクセスから一時的に除外(最大12ヶ月間/入札手続き・助成金・コンセッションを含む)
【4】EU域内における当該品目の一時的な取引禁止(重大な違反・繰り返しの違反の場合)
【5】「低リスク国」の場合、簡易デューディリジェンスの実行禁止(重大な違反・繰り返しの違反の場合)
とはいえこの規則は、発効と同時に実行されるわけではありません。EUDRに関わるすべての事業者と貿易業者には、下記図のように適用まで猶予が与えられているのです。
このEUDRに似た動きとして挙げられるのが、日本のクリーンウッド法。正式名称を「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」といい、林野庁によって2017年に施行されました。ただこの法律は努力義務であったため、合法性が確認された木材量は総需要量の約4割にとどまる結果に。
これを受け2023年に「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、同年5月8日に公布されました。この法律では川上・水際の木材関連事業者に対し、下記3つを義務付けています。
【1】原材料情報の収集、合法性の確認
【2】記録の作成・保存
【3】情報の伝達
この法律の施行については、公布の日から起算して2年を超えない範囲内(=2025年)とされており、今後定められる予定です。
またサステナビリティに関する質問書を送り、その回答によってスコアを付与するCDPは「CDPに回答することで、EUDRに備えることができる」と言及。というのもCDP質問書は、前述したEUDRの3つのステップ(商品に関する土地の明示/リスク分析・評価/リスク緩和措置)と同じ内容を回答する項目があり、EUDRに整合しているからです。
今回のコラムでは、森林破壊・劣化に関するEUの新しい規則についてお伝えしました。EU市場に製品を輸出している・あるいは輸出を検討している企業であれば、大きな影響を受ける可能性もあるこの規則。大企業では2024年から適用が開始され、違反の場合は罰則もあります。まずは自社が対象となっているか、適用される前までにしっかりと確認しておきましょう。
弊社は環境経営におけるパートナーとして、CDPやTCFD、TNFDなど各枠組みに沿った情報開示や、GHG排出量の算定のご支援をさせていただいております。『専門知識がなく何から始めれば良いか分からない』『対応をしたいけれど、人手が足りない…』といったお悩みを持つ方がいらっしゃいましたら、弊社にお声がけいただけますと幸いです。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
『CDP Policy Explainer on the EU Deforestation Regulation (EUDR), (2024, January), CDP.』