
SDGs(持続可能な開発目標)という言葉はすっかり定着しましたが、「その目標はいつまでに達成しなければならないのか」「現状どのくらい進んでいるのか」を正確に知る人は多くありません。
結論から申し上げます。SDGsの達成期限は「2030年まで」です。
しかし、国連の報告によれば、現状のペースでは期限内の達成は極めて厳しい状況にあります。 本記事(前編)では、SDGsの期限に関する基礎知識と、世界全体のリアルな進捗状況について、データを交えて解説します。

目次 Index
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。
一言で言えば、「環境・社会・経済の課題を解決し、2030年までに誰一人取り残さない持続可能な世界を作るための約束」です。
SDGsは「17のゴール(目標)」と、それをより具体的にした「169のターゲット」で構成されています。
SDGsの概念を整理する有名な図として、ストックホルム・レジリエンス・センターが提唱した『ウェディングケーキモデル』があります。

これらはバラバラに存在するのではなく、以下の3つの側面として整理すると理解しやすくなる、というモデルです。
これらを統合的に解決することがSDGsの目指す姿です。
なぜ今、これほどSDGsが重視されるのでしょうか。 それは、異常気象、貧富の拡大、資源の枯渇などにより、「このままの経済活動を続けていては、地球も人間社会も持たない」という限界点が見えてきたからです。従来の「発展=経済成長」という考え方から、「持続可能性(サステナビリティ)」を前提とした発展へとシフトする必要性が、世界中で共有されています。
繰り返しになりますが、SDGsのゴールテープは2030年に設定されています。ここでは、その理由と過去の目標との違いを整理します。
A. 前身の目標からの区切りであり、気候変動の「重要な分岐点」とも重なるからです。
SDGsは、2015年までの目標だった「MDGs(ミレニアム開発目標)」の後継として、次の15年間(2016年〜2030年)で達成すべき目標として設定されました。 さらに、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の『1.5℃特別報告書』等でも示されている通り、2030年は温暖化を1.5℃に抑えるために温室効果ガスを大幅に削減すべき『決定的な10年』の区切りと重なっており、環境面でも極めて重要な意味を持っています。
SDGsとMDGsの違いを表に整理してみました。
| 項目 | MDGs(2000年~2015年) | SDGs(2016年~2030年) |
|---|---|---|
| 正式名称 | ミレニアム開発目標 | 持続可能な開発目標 |
| 主な対象 | 開発途上国 | 先進国を含むすべての国 |
| 目標の数 | 8つの目標 | 17の目標(169のターゲット) |
| 解決主体 | 国連や政府が中心 | 企業・自治体・個人も含めた パートナーシップ |
最大の違いは「先進国を含むすべての国が対象」である点です。途上国支援だけでなく、先進国自身の社会課題解決も求められています。
期限まで残り5年となった今、進捗はどうなっているのでしょうか。 結論としては、多くの目標で遅れが出ており、2030年までの達成は「極めて厳しい」状況です。
国連の報告書(The Sustainable Development Goals Report)等によると、進捗は以下のように二極化しています。
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が発行するレポート『SDR25』によると、世界全体の傾向として、北欧諸国(フィンランド、スウェーデンなど)が達成度ランキングの上位を占めています。 また、日本を含めたG7(主要7カ国)などの先進国でも、すべての目標をクリアできているわけではありません。特に環境負荷に関する目標で苦戦を強いられています。
世界的に見て、現在「達成が難しい(深刻な遅れがある)」のは、主に以下の3つの分野です。
気候変動対策(目標13)や生物多様性(目標15)が遅れている最大の要因は、現在の経済システムが環境負荷を前提にしているからです。
「産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える」ためには、エネルギーを化石燃料から再生可能エネルギーへ転換する必要があります。しかし、これには莫大なコストと産業構造の変革が必要です。多くの国で「経済成長」と「環境対策」がトレードオフの関係になっており、各国の利害調整が難航しています。
「貧困をなくそう(目標1)」や「飢餓をゼロに(目標2)」はSDGsの基本ですが、ここ数年で状況はむしろ悪化しました。
パンデミックやインフレ、地域紛争は、立場の弱い人々(低所得者層、女性、子供)を直撃。一方で、富裕層に富が集中する傾向は変わっていません。 単に食料や物資が足りないのではなく、「行き渡るべき人に行き渡らない分配の仕組み」が改善されていないことが、達成を阻む大きな壁となっています。
進捗の遅れには、国の経済状況によって異なる理由があります。
途上国における最大の壁は「資金不足(SDGs資金ギャップ)」です。インフラ整備や教育・医療にお金をかけたくても、その元手となる資金が圧倒的に足りていません。先進国からの資金援助や投資が必要不可欠ですが、約束された支援額には達していないのが現状です。
遅れているのは途上国だけではありません。先進国と途上国では、抱えている課題の質が異なります。
| 国の分類 | 主なボトルネック(課題) | 遅れが目立つ目標例 |
|---|---|---|
| 開発途上国 |
「基礎的な生活基盤の欠如」 資金・技術不足によりインフラが整わない。 |
|
| 先進国 |
「過剰な消費と環境負荷」 大量消費生活が地球環境を圧迫している。 |
|
日本を含む先進国は、「自国の豊かな生活が、他国の資源や労働力、そして地球環境への負荷の上に成り立っている」という点(スピルオーバー効果)に向き合う必要があります。
本記事(前編)のポイントをまとめます。
世界全体で「黄色信号」が灯っている今、私たち日本はどのような状況にあるのでしょうか? 実は、日本のSDGs達成度は世界ランキングである順位まで後退しており、特定の分野で深刻な課題を抱えています。
続く後編では、「日本の達成度ランキング詳細」と「2030年以降を見据えた具体的なアクション」について解説します。
【後編はこちら】→(後日公開予定です!)

A. 前身の目標からの区切りであり、気候変動の「重要な分岐点」とも重なるからです。
A.「ポストSDGs」と呼ばれる新たな目標が設定される見込みです。2030年になったからといって、地球上の課題がすべて解決するわけではありません。国連未来サミットでは、SDGsで達成できなかった課題や、AIの進化など新たに出現した課題に対応するための議論がすでに始まっています。
法的な罰則はありませんが、「実質的な不利益」が生じます。
SDGsは国際条約のような法的拘束力を持つものではないため、達成できなくても国や企業に罰金が科されることはありません。しかし、気候変動による災害の激甚化や、国際社会からの信用の失墜、投資家からの評価ダウン(ESG投資からの除外)など、経済的・社会的に大きな損失を被る可能性があります。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
・A/RES/70/1 – Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development. United Nations.(2025年11月参照)
・The Sustainable Development Goals Report 2024. United Nations.(2025年11月参照)
・Global Warming of 1.5 ºC —. IPCC.(2025年11月参照)
・The SDG Index and Dashboards. Sustainable Development Report.
・SDG Index – Spillover Scores. Sustainable Development Report.(2025年11月参照)
・SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform . 外務省(2025年11月参照)