
バイオ炭とは、木材や家畜糞尿、草木、もみ殻、木の実などの「バイオマス」を原料とし、ある一定の温度で加熱することで作られる固形物として定義される炭のことです。バイオ炭は近年、地球温暖化対策の取り組みの1つや、J-クレジットとしての活用などの面からも注目が高まっています。本コラムでは、バイオ炭の概要をはじめ、その作り方や導入事例、国による支援策まで、幅広く解説していきます。
目次 Index
バイオ炭とは「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下で、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」として定義された炭のことです。そもそも、バイオ炭の原料になる「バイオマス」とは、木材や家畜糞尿、草本、もみ殻、木の実、下水汚泥などを指します。原料はそれぞれ「土壌改良資材」、「木炭(政令指定土壌改良資材)」、「肥料」の3つに分けられます。

バイオ炭は、農地に施用することで地球温暖化対策になる取り組みとして注目を集めています。2021年10月に決定した地球温暖化対策計画では、農地土壌吸収源対策としての目標を掲げており、2030年度で850万トン、2040年度で900万トンです。対策方法として堆肥や緑肥等の有機物、そしてバイオ炭の農地施用も挙げられています。また、J-クレジット制度において、2025年8月8日に新たに、バイオ炭使用型コンクリートの使用による方法論が策定されており、バイオ炭を活用したJ-クレジットについては後述します。
ここからはバイオ炭を利用することのメリットについて解説していきます。メリットとして挙げられるのは以下の点です。
それぞれ見ていきましょう。
1つ目のメリットとして、土壌の改善効果が挙げられます。バイオ炭の原料によって土壌の改善効果が異なり、主に以下のような効果があります。

バイオ炭の原料が木質チップや竹であれば、土壌の「保水性」が良くなります。一方で、「保肥性」を改良するには、いずれも生成温度が低温であることに適しており、高温だと適しません。このように、改良したい目的に沿ったバイオ炭原料を選ぶことが重要です。
2つ目は、未利用バイオマスの利活用です。地域によっては、もみ殻や竹林、森林の施業を行った際の剪定枝や間伐材などのバイオマスが未利用のままの地域があります。これらをバイオ炭として活用することで、例えば剪定枝や間伐材であれば、処理をするコストが削減され、竹林については放置せずに伐採・管理してバイオ炭にすることで鳥獣対策にもつながります。
3つ目は、バイオ炭の導入による実施者への貢献です。前述したJ-クレジット制度などを活用することで、通常の営農に加えた販売収益が得られるほか、土壌改良した土地で生産された農作物に付加価値を付けることができるなど、営農実施者にもメリットがあります。
最後に、バイオ炭事業は、前述したように国の地球温暖化対策の一環としても推進されており、農林水産省などを中心にバイオ炭事業の支援を受けることができます。具体的な補助金や支援については最後に記載します。
ここまでバイオ炭のさまざまなメリットについて解説してきましたが、一方でデメリットもあります。バイオ炭の一番の課題は導入コストの高さです。J-クレジットを活用した新たな販売収益の確保というメリットを挙げましたが、日本における現在のバイオ炭クレジットの価格を踏まえても導入コストの高さが大きな課題です。バイオ炭を製造する費用に加えて、J-クレジットを発行するための費用を概算すると、1t-CO₂のバイオ炭を作るのに20,000〜40,000円かかると言われています。一方で、東証のカーボン・クレジット市場での現在の価格は1t-CO₂あたり4,000円程度であり、この水準では採算が合わないことが分かります。
コスト以外にも課題はあり、その1つが品質のばらつきです。バイオ炭のメリットで取り上げたように、バイオ炭の原料はさまざまな種類があります。そのため、原料によって土壌改良の効果が異なり、効果にばらつきが生じてしまうのです。土壌のどのような点を改良したいかによっては、バイオ炭の原料を選択しなければなりません。
ここまでバイオ炭の概要やメリット・デメリットについて解説してきましたが、そもそもバイオ炭はどのように作られるのでしょうか。ここではバイオ炭の作り方を解説します。
無動力炭化平炉とは、電力やガスなどの動力源なしに炭を作ることができる方法です。特徴としては、多くのバイオマス資源を利用できる点や、一度に大量に炭を作ることが可能で、約20㎥の炉であれば、1回で約5トンの炭を作り出すことができます。他にも少人数で作業が可能なところも特徴です。
可搬型密閉式BC炭化ユニットW&Sとは、炭化する際に排出される排煙を再度燃焼させ、熱エネルギーとして有効利用できることや、それにより匂いや煙を減らすことができることが特徴の装置です。また、この装置を利用しやすくするため、クレーン付きのトラックに積載して移動させることも可能な装置になっています。
開放型簡易炭化器は名前の通り、簡易的に炭焼きを実施できる炭化器です。ステンレスの器の中に剪定枝などを入れて着火するだけで、炭化させることができます。簡易炭化器には分解でき、携行が可能なものもあります。
最後に、間伐材等を原料とした木質チップ・ペレットを熱分解することで発生するガスを利用する発電方式では、発電規模にもよりますが、バイオ炭が生成されます。規模の目安としては、50kW~2,000kW程であれば大量に生成されると言われています。
続いて、前述したバイオ炭とJ-クレジットの関係性についても解説していきます。バイオ炭を活用したJ-クレジットの方法論には、主に2つの方法論があります。
1つは「AG-004:バイオ炭の農地転用」です。本方法論では、農地や採草牧草地などの土壌にバイオ炭を施用することによる炭素の土壌への貯留量をクレジットとする方法論になります。
2つ目は、「IN-007:バイオ炭使用型コンクリートの使用」です。本方法論では、建築物や土木構造物にバイオ炭を使用することによるCO₂の固定量をクレジット化する方法論になります。どちらも方法論としては新しいものとなっており、事例もまだ少ないものです。
バイオ炭の新たな活用方法として注目されていますが、「AG-004:バイオ炭の農地施用」については、バイオ炭であればすべてが適用するわけではありません。以下がJ-クレジットの対象となるバイオ炭の条件になります。

続いて、バイオ炭を活用した事例について、国内・国外それぞれ紹介していきます。
日本クルベジ協会は、「炭貯クラブ」を創設し、国内18の都道府県における11の団体・個人によるバイオ炭の農地施用の取りまとめを行っております。2022年6月の第50回認証委員会にて認証がされ、「バイオ炭の農地施用」の方法論第1号となっています。
山梨県では、4パーミル・イニシアチブに参加しており、バイオ炭の炭化方法や炭素貯留量、土壌改良の効果、生物への影響などを研究しています。4パーミル・イニシアチブとは、パリ協定と同時に発足した取り組みであり、世界の土壌表層における炭素量を0.4%(4パーミル)増加させることで、人為的な活動によって増加するCO₂を実質ゼロにできるという考え方です。日本では、山梨県が初めてこの取り組みに参加し、バイオ炭に関する研究を行っています。
「Alcom Carbo Market」とは、シンガポールに本社を置くALCOM社による取り組みで、フィリピンにおけるバイオ炭製造工場を運営し、カーボン・クレジットを取り扱っています。バイオ炭製造工場では、稲作における農業残渣を活用してバイオ炭の製造を行っています。
「Carbon Culture」は、フィンランドにあるスタートアップ企業で、会社独自の高温高圧熱分解法を用いて、炭素含有率が高くCO₂固定能の高いバイオ炭を生成しています。栄養保持の高さを生かして土壌改良資材としての活用や、建設材におけるセメントの代替材としての販売も行っています。
最後にバイオ炭の促進に活用できる交付金や補助金制度を紹介します。活用可能な支援策としては主に8つあり、以下の表にまとめました。

例えば、「環境保全型農業直接支払交付金」は、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取り組みと、地球温暖化防止に効果的な営農活動を支援する交付金です。本事業では、炭を農地へ施用する取り組みが支援対象となります。具体的には、10a以上の農地に50kgまたは500Lの炭を施用することで、10aあたり5,000円の支援を受けることができます。また、「産地生産基盤パワーアップ事業(全国的な土づくりの展開)」は、堆肥や土壌改良資材を実証的に活用する取り組みを支援する事業です。具体的には、バイオ炭の購入費や運搬費、実証的な活用に必要な調査や指導経費などを支援しています。
このようにバイオ炭の積極的な利用を促進していくために、国として多くの支援策が講じられています。
本コラムではバイオ炭の仕組みから活用事例、国の支援策まで、幅広く解説してきました。バイオ炭は地球温暖化対策としての取り組みやJ-クレジットとして、農家の新たな収益になり得る取り組みとして注目を集めています。導入コストなどの課題はありつつ、課題に対して国からも多くの支援が存在しています。バイオ炭の利用拡大に向けた研究も国内では進められており、今後もますますバイオ炭の価値は高まっていくことに期待です。
弊社では、J-クレジットの創出支援やプロバイダーとしての役割を担っております。また、海外のボランタリー・クレジットについても取り扱っております。カーボン・クレジットに関するお悩みなどがありましたら、弊社までご相談ください。
A. バイオ炭とは、燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下で、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」として定義された炭のことです。一般的な炭と違い、バイオマス資材を原料としており、「木炭」や「土壌改良資材」、「肥料」などに活用されます。
A. バイオ炭の用途としては主に3つあります。
A. バイオ炭は、炭化器と呼ばれるステンレス製の器にバイオ炭の原料となる剪定枝や間伐材などを入れて、着火することで作ることができます。最近では、大規模にバイオ炭を生成する際に電力などの動力を使わず製造する機械や製造した際に排出される煙を再利用する方法などの仕組みもあります。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
バイオ炭の農地施用をめぐる事業. (2025.April). 農林水産省 農産局 農業環境対策課. (参照2025.11.20)
バイオ炭の作り方 炭と熱分解. 農林水産省. (参照2025. 11.20)
無動力・低コストで大量生産が可能な独自の製炭炉. 高槻バイオチャーエネルギー研究所. (参考2025.11.07)
IN-007:バイオ炭使用型コンクリートの使用. (2025. October). J-クレジット制度. (参照2025.11.07)
AG-004:バイオ炭の農地施用. (2025. October). J-クレジット制度. (参照2025.11.07)
4パーミル・イニシアチブについて. (2025. October). 山梨県. (参照2025.11.19)
バイオ炭の農業利用事例とその活用ガイドブック. (2025. March)脱炭素に向けた農林業環境研究コンソーシアム. (参照2025. 11.20)