パリ協定6条とは、国際的な炭素クレジットの取引や協力的アプローチに関するルールを定めた条項です。2024年のCOP29では、パリ協定6条に関する完全な合意がなされ、詳細なルールなどが決定されました。本コラムでは、パリ協定6条の概要やCOP29での決定事項など、幅広く解説していきます。
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パリ協定に基づくクレジットとは、パリ協定6条に定められているルールに則った国際的な炭素クレジットです。パリ協定では、すべての国が温室効果ガスの排出削減目標であるNDC(National Determined Contribution)などを定めることが規定されています。2025年3月時点で、日本を含む76か国がNDCを提出しました。パリ協定6条には、温室効果ガスの排出削減を効率的に進めるために、排出削減量を国際的に移転する手法を各国のNDC達成に活用できることが規定されています。
パリ協定6条は、締約国同士が排出削減対策を実施することで得られた追加的なクレジットを、協力国や企業などの間で分配・移転ができる仕組みです。パリ協定6条の実施に向けた詳細なルールについては2021年のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)にて完全な合意を得られました。パリ協定6条は全9項から成り、特に炭素クレジットの仕組みが規定されているのは、「6条2項」、「6条4項」、「6条8項」の3つです。ここからは、パリ協定6条のそれぞれの規定について詳しく解説していきます。
パリ協定6条2項の内容としては、国際的に移転したクレジットである「ITMOs」の排出削減目標への活用に関するガイダンスです。「ITMOs」とは「Internationally Transferred Mitigation Outcomes」の略称で、6条2項に基づいて実施された排出削減量を指します。6条2項には具体的には以下のような内容が規定されています。
以下は6条2項によるクレジットの仕組みのイメージです。Aという国がB国に対して脱炭素の技術やプロジェクトを支援します。その活動によって削減されたCO2をクレジットの一部をA国へ移転することで、移転分をA国はNDCの達成となり、移転していない分については、B国は技術支援等によりCO2削減が実現します。この際に発生したクレジットについては、「UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change:気候変動に関する国際連合枠組条約)」の事務局に報告しなければなりません。これは6条2項に基づく仕組みです。
続いて6条4項についてです。6条4項は、CDM(Clean Development Mechanism)の後継のような位置づけとなっており、管理は国連が行います。国連に対して、排出削減プロジェクトを申請し、国連の監督機関が審査や排出削減量を特定、その後の削減量の国際取引を国連が管理するようなクレジットの仕組みです。4項では、以下の4つの活動を促進することが規定されています。
3つ目が6条8項です。2項と4項では、削減量を移転することで目標達成を促進することが規定されていました。8項では、2項、4項とは異なり、削減量の国際的な移転を伴わない活動(非市場アプローチ)を促進させることが規定されています。具体的には、クリーンエネルギーの開発や適応、地域の強靭化などになります。
ここまでパリ協定6条について解説してきましたが、日本国内においてもパリ協定6条に基づいて創られたクレジット制度が存在します。それがJCM(Joint Crediting Mechanism)で、二国間クレジット制度とも呼ばれています。JCMは、日本がパートナー国で脱炭素技術等の普及や緩和活動を実施し、そのプロジェクトによる温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして発行し、日本の削減目標達成に活用するという仕組みです。
日本では2011年より関係国とのJCMに関する協議を進めており、2025年8月時点で、モンゴルやバングラデシュをはじめとして、31か国との関係性を構築しています。
JCMは6条2項に基づいて実施されています。具体的に、パリ協定6条と関連する主な項目は以下の通りです。
2024年に開催されたCOP29(第29回気候変動枠組条約締約国会議)では、パリ協定第6条の完全運用化が合意されるという動きがありました。これを受け、日本国内ではJCMの運用をパリ協定6条に沿った形にしていくことやJCMのプロジェクトの拡大や加速にも取組む方針を示しました。
パリ協定6条はCORSIAとも深い関係性があります。CORSIAとは、「Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation」の略称で、日本語で「国際航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム」という意味です。CORSIAは、ICAO(International Civil Aviation Organization)と呼ばれる国際民間航空機関が、2020年以降の年間燃料効率2%向上やCO₂排出量の増加制限などの短期目標達成のための制度として採択されました。
CORSIAに関する詳しい解説はこちらをご覧ください。
CORSIAとパリ協定6条は、特に関係してくるのが「相当調整」です。例えば、A国のGHG排出量に対してB国の協力で対策を実施したとします。その際の削減分のクレジットをB国に分配した場合、分配したにも関わらず、A国でもこの削減分をカウントしてしまうとダブルカウントになります。このダブルカウントを防止するために、分配分をA国の排出量に上乗せするという考え方が「相当調整」です。
パリ協定6条4項に基づいて発行されたクレジットは、UNFCCCが管理するレジストリに保存されますが、これをCAOが管理するCORSIAのレジストリに移転することでCORSIAの適格クレジットとして活用することが可能です。その際に「相当調整」が実施されていることが前提となります。
ここからは、国内・国外のパリ協定6条に関する最新動向を紹介していきます。主に国内ではJCMクレジットについて、国外ではCOP29でのパリ協定6条の決定事項を紹介します。
JCMクレジットの最新動向として、2025年8月7日にインド政府との間でJCMクレジットに関する協力覚書が署名され、8月29日には、JCMを有効に活用し、日本とインド両国が連携して気候変動対策と脱炭素技術の推進を目指すことが確認されました。これにより、日本にとってインドは31番目のJCMパートナー国となります。JCMではおよそ120近くの方法論が存在し、2025年9月1日には、タイにおいて「電気、暖房エネルギー、冷房エネルギーを供給する吸収冷凍機を備えたガスコージェネレーションシステムの設置」という新たな方法論が承認されました。
続いて、国外のパリ協定6条の動向について、COP29での議論を解説します。2024年11月11日よりアゼルバイジャンで開催されたCOP29では、「CMA6」と呼ばれる「パリ協定第6条締約国会合」が行われました。今回のCMA6では、パリ協定第6条の完全運用化が合意され、これによりクレジットを分配する際に必要となる政府の承認・報告や、登録簿の連携など、詳細事項が決定されました。
パリ協定6条の活用として以下のようなデータがあります。「UNFCCC」による2021年度のNDCに関する統合報告書によると、8割を超える締約国が少なくとも1つの活用を計画している、もしくは活用する可能性があるという結果となっています。具体的な6条それぞれの割合としては、6条2項が「すでに活用の計画あり」と答える国が多く、次いで6条4項、CDM、6条8項という順番です。
本コラムでは、パリ協定のクレジットについて解説してきました。パリ協定6条の規定は、各国の国際間の炭素クレジットの基礎的な役割を担っています。パリ協定6条に関する議論は、COP29にて完全に運用化がされたことにより、交渉は終了しました。今後は、決定した6条のルールに基づいて、さまざまな国で取組が加速していくことが予想されます。
弊社は、J-クレジットの創出支援やプロバイダーとしての役割を担っております。カーボン・クレジットに関するお悩みなどがありましたら、弊社までご相談ください。
CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
パリ協定6条について. (2025. January). 経済産業省今をつなぐ、未来をひらく。地球室
COP27を踏まえたパリ協定6条(市場メカニズム)解説資料. (2023. March). 環境省 地球環境局 国際脱炭素移行推進・環境インフラ担当参事官室. (2025. 09.09)
パリ協定第6条特集. IGES 公共財団法人地球環境戦略研究機関
JCM(二国間クレジット制度). (2025. August). 経済産業省
CORSIA適格燃料登録・認証取得ガイド第3版(Ver. 3.0). (2025. March). 国土交通省航空局カーボンニュートラル推進室
The Joint Crediting Mechanism. (2025.09.09)
二国間クレジット制度(JCM)の概要と最新動向. (2025.November). 環境省_経済産業省_農林水産省_外務省_日本政府指定JCM実施気候(JCMA)