広大な北海道にてガス事業を展開し、2016年からは電気事業にも参入している北海道ガス様。「エネルギーと環境の最適化による快適な社会の創造」に向けて、ガス、電気、熱供給等の「総合エネルギーサービス事業」を展開しています。 2022年度からは中期経営計画「Challenge2030」のもと、徹底的な省エネによる低炭素化と、あらゆる手段・可能性を模索しながら 脱炭素化の取り組みを推進。その過程で浮かび上がったのが 、温室効果ガスの排出削減量を国や企業間で売買できるよう認証したカーボン・クレジットの必要性でした。同社ではどのようにカーボン・クレジットを調達し、活用しているのでしょうか。環境・地域共創推進部のお二人に伺いました。
“北海道ガス様の事業とサステナビリティへの取り組みについて教えてください。”
当社が主に取り組んでいるのは都市ガス事業で、札幌を中心に60万件を超える(2025年3月末時点)お客さまにご契約いただいています。2016年からは電力の自由化を受け、電気事業にも参入し、これを契機として「総合エネルギーサービス事業」を展開し始めました。地域ごとの需要に応じてガスと電気を最適な状態で供給する分散型エネルギーシステムの構築に注力しています。
その代表的な取り組みが、1つのエネルギーから複数のエネルギーを取り出す「コージェネレーション」と呼ばれるシステムです。これは、ガスで発電して電気を作る際に排出される熱を回収して、暖房や給湯などに有効利用する仕組みで、家庭用・業務用の建物だけでなく産業用の工場でも活用されています。たとえば当社グループ本社ビルの地下にある札幌発電所の排熱は、札幌都心部の熱供給用中央エネルギーセンターで利用されています。さらに、このエネルギーセンターでは、建築廃材のチップを使ったバイオマスボイラーも導入し、CO₂排出量の少ないシステムを実現しています。
また、2019年4月に運用を開始した46エネルギーセンターでは、北海道で初めてとなる「CEMS」を導入しました。CEMSとはCommunity Energy Management System(地域エネルギーマネジメントシステム)の略称で、町や家単位で最適なエネルギーシステムを作り上げていくことを指します。このシステムの最大のメリットは、徹底的な省エネになるということ。これまでは「お客さまがどのように使っているか」には関与せず、とにかく不足しないようにエネルギーを供給していました。その点CEMSではIoT活用によるエネルギーの見える化や省エネアドバイス・制御などによって、エネルギーの使い方にまで入り込めるため、需要側と供給側のエネルギーを最小化・最適化し、省エネを推進できます。
加えて、戸建て住宅など各家庭から全道へ電気をシェアするシステムも推進しています。ガスエンジンで発電し、その排熱を暖房に活用する家庭用コージェネレーションシステム「コレモ」は、寒冷地である北海道に適した省エネシステムの1つ。コレモでは余った電気を当社が回収し、北海道ガスの電力として全道へ再供給しています。現在は年間で一般家庭約4,000世帯相当分の電力量を買い取っており、分散型エネルギーシステムを支える1つとなっています。
“ガス・電力の脱炭素化や再生エネルギーについてはどうお考えですか。”
中期経営計画「Challenge2030」の目標である、2030年再エネ電源取扱量15万kWの達成に向けて、取り組みを進めています。当社がカーボンニュートラルを進めるうえで重視しているのは、「地域との連携による地産地消のエネルギーモデルを構築すること」です。地域資源を脱炭素電源として活用するのはもちろん、単に発電して終わりではなく、その電力を地域内で循環させることで北海道全体のGX(グリーントランスフォーメーション)化も目指しています。
具体的な取り組みの1つとして挙げられるのは、上士幌町様における牛のふん尿を活用したバイオガス発電とその電気の小売事業です。事業自体は上士幌町の観光商社が担っており、当社は専門的な知見を活かしつつ電力事業を展開する仲間として、発電会社と利用者の需給管理をサポートしています。まさに地域で生まれたエネルギーを地域で使い、環境的・経済的な価値が町外に流出しないよう、地域内で使い切るモデルを構築しています。
こうしたエネルギーの地産地消を目指すモデルの導入は、森林でも進めているところです。当社では2021年に南富良野町の森林の一部を購入し、「北ガスの森」と命名しました。森林保全等の多面的な機能を守るとともに、J-クレジットのCO₂吸収プロジェクトに登録し、環境価値の創出に取り組んでいます。さらに、創出した環境価値をカーボン・オフセット等を通じて地域に還元する仕組みづくりも進めています。
“「北海道全体のGX化」において、エスプールブルードットグリーンではJ-クレジットの販売という側面から貴社をサポートさせていただきました。購入先に選ばれた理由をお聞かせください。”
当社ではガスや電気と環境価値をセットで販売するカーボン・オフセットメニューを提供しています。このサービスを継続的に提供していくうえで、環境価値を計画的に調達できることは、非常に重要です。そのため、複数年にわたって安定した量を確保できる調達先を探していたところ、エスプールブルードットグリーンから、3年間にわたり安定してJ-クレジットを確保できるとご提案いただき、購入を決めました。
J-クレジット調達は、当社が発注したタイミングで調達先に動いてもらうケースが多く調達量や価格水準が安定しないという課題がありました。J-クレジットの創出段階から関与できないため、お客さまや当社が必要とする希望数量を確保することが難しかったのです。
その点、クレジット創出支援も行っているエスプールブルードットグリーンを介した購入では、課題が解決され、希望する数量を確保することができました。中長期間のJ-クレジット購入については当社にとって初めての試みでしたが、「実際に創出している現場を視察したい」という要望にも柔軟に応えていただき、創出者様の想いを直接お伺いしたうえで、安心して購入することができました。こうした細かな要望から、ざっくばらんな相談まで対応していただけたことは大変ありがたく感じました。
当社がCO₂クレジット購入を開始したのは2021年11月で、その頃はカーボン・オフセットメニューの提供も目新しい状況でした。ただ最近は、国内法にも対応できるJ-クレジット付きカーボン・オフセット都市ガスを利用したいというニーズが増えています。今後も、一定規模の調達を継続し、エネルギー事業を通じて北海道のカーボンニュートラルへ貢献していきます。
“最後に、今後の取り組みについてお聞かせください。”
まずはカーボンニュートラルに向けて、徹底的な省エネに取り組みます。カーボンニュートラルを進めるにあたり、プラスαのコストをそのまま価格に転嫁するだけでは経済が成り立ちません。省エネによってエネルギー消費を削減すればコストも抑えられ、カーボンニュートラルで持続可能な社会モデルの形成につながります。そのうえであらゆる手段・可能性を模索しながら脱炭素化にも取り組んでいきます。電力の脱炭素化については、道内各自治体様とともに、地域内にある再エネ電源の活用検討を行い「エネルギーの地産地消」を推進しているところです。現時点で9つの自治体様と連携しており、今後も連携先を増やしながら、北海道内の脱炭素化を進めていきたいと考えています。
一方でガスの脱炭素化については、再エネ由来の合成ガスである「e-methane(イーメタン)」の導入に向けて、現在実証事業に参画し、地域資源である再エネ余剰電力、副生水素、未利用CO₂を有効活用する検討を行っています。e-methaneは既存の都市ガスインフラやガス機器をそのまま利用できるため、社会コストの増加を抑えながらシームレスに脱炭素化を実現できる手法として期待しており、実現に向けた取り組みを推進してまいります。また、環境価値の創出・活用は、ガスの脱炭素化に向けて現実的で有効な手段であると考えています。
これまでもお伝えしてきましたが、当社がガス・電力の脱炭素化を進めるうえで重視しているのは「地産地消」です。人口減少や少子高齢化などの社会構造が変化する中で、「エネルギーと環境の最適化による快適な社会の創造」に向け、北海道全体の持続可能なエネルギーモデルの構築に取り組んでいきます。
[企業紹介]
北海道ガス株式会社:https://www.hokkaido-gas.co.jp/