非化石証書は、小売電気事業者に課せられた高度化法目標達成のために2017年2月に取引が始まりました。現在では、さまざまな国際的なイニシアチブに活用できる証書であり、J-クレジットやグリーン電力証書などと比べて価格が安いこともあり、注目が高まってきています。最新の非化石証書の取引量は過去最大となりました。
本コラムでは、非化石証書の基礎的な概要から2024年度の最新の取引結果について詳しく解説していきます。
目次 Index
非化石証書とは、「非化石電源」から作られた電力であることを証明する証書のことです。非化石電源とは、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料ではなく、原子力や、太陽光や風力などの非化石エネルギーで発電する方法を指します。近年、さまざまなイニシアチブへの活用が可能であるため需要が高まっています。
さて、そもそも非化石電源から作られた電力を証書化するとはどういったことでしょうか?
従来、非化石電源から発電された電気は、「電気そのもの(kWh価値)」と「非化石価値(ゼロエミ価値等)」をまとめて「非化石電気」としていました。しかし、証書化するということは「電気そのもの」と「非化石価値」を切り分けて考えます。この切り分けた「非化石価値」を「非化石証書」としています。
電気と非化石価値を切り分けて考えることで、非化石電源由来の電力を利用していることを証明でき、さまざまなイニシアチブにおける削減根拠として示すことができるようになります。
非化石証書には3つの種類があります。FIT制度への適用の有無や電源種類、市場取引運営などの観点で
に分けられています。それぞれの特徴を見ていきましょう。
1つ目に「FIT非化石証書」です。これは、その名の通りFIT制度に該当する電源で発電された電気の環境価値です。FIT制度に該当する電源は再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)であるため、FIT非化石証書であれば100%再エネ由来の電源となります。
2つ目は「非FIT非化石証書(再エネ指定あり)」です。
非FIT非化石証書(再エネ指定あり)はFIT電源ではありませんが、再エネ由来の電源に対する環境価値を示します。FIT電源を卒業した再生可能エネルギーか、FIT制度の対象にならない大型水力発電などが該当します。
3つ目が「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」です。
非FIT非化石証書(再エネ指定なし)は、FIT非化石証書と非FIT非化石証書(再エネ指定あり)に該当しない電源による発電が対象で、原子力発電やごみ発電(廃プラスチック)などが該当します。今後、水素発電等の検討もあります。
ここまで非化石証書の種類を取り上げてきましたが、「トラッキング付与の有無」も購入の際に注目されてきています。
トラッキングとは、発電種別、発電所名、発電所所在地や運転開始時期など、その電力がどこでどのように発電されているかを証明する情報のことです。現在JEPXで取引されているFIT非化石証書については、すべてトラッキングが付与されております。2019年以降に、小売電気事業者の要望に応じて、トラッキング付与の実証が始まり、2021年の再エネ価値取引市場創設に合わせて、FIT証書の全量トラッキングが義務化されました。非FIT非化石証書については、義務化はされていませんが、自己申告制でトラッキングを付与することも可能です。
トラッキングが付与されることで、CDPやSBT、RE100などのさまざまなイニシアチブへの対応が可能になります。ただし、RE100については、発電開始後15年未満の電源であることが必要であり、需要家は購入の際に、発電開始時期が「運転開始後15年未満か否か」を選択することができます。
ここまで、非化石証書は3つの種類に分けられ、それぞれに該当する発電電源等を示してきました。続いて取引方法を見ていきましょう。非化石証書は、一般財団法人日本卸電力取引所(JEPX)の市場で取引されています。その中で、高度化法義務達成市場と再エネ価値取引市場の2つの市場が運営されており、入札対象や参加者に違いがあります。
高度化法義務達成市場では、非FIT非化石証書が取引されており、小売電気事業者のみの参加となります。入札形式としてはシングルプライスオークションが取られています。シングルプライスオークションとは、発電事業者が売り入札、小売電気事業者が買い入札をした結果、約定価格が一点に決定する方式です。数社が証書を入札した際に、価格上位から順に落札されますが、実際に支払う価格はある売り入札と買い入札の需要供給が一致した一点の価格を支払います。
再エネ価値取引市場では、FIT非化石証書が取引されており、本市場では、小売電気事業者だけでなく、需要家や仲介事業者も購入できます。入札形式は、マルチプライスオークションが取られています。マルチプライスオークションとは、売り手や小売電気事業の入札価格によって価格を決定する方式です。各社が提示した価格で落札されるため、入札者によって落札価格が異なってきます。
以上を踏まえて非化石証書の種別に市場や取引方法、購入主体などをまとめました。
非化石証書市場での直近の取引は2025年5月23日でした。2025年5月には2024年度第4回入札が実施され、本入札をもって2024年度の取引が終了しました。そこで今回は2024年度の非化石証書の取引結果について、価格の動向や発電種別、さらには都道府県ごとの傾向に着目しながら、非化石証書の実態を見ていきます。
FIT非化石証書の取引が行われている再エネ価値取引市場の2024年度の第4回(2025年5月23日)時点までの取引推移は以下のような結果になりました。
2024年度第4回入札では、約定最高価格が4円/kWhに上昇しています。約定平均価格についても2023年8月31日入札以降、0.4円/kWhでしたが、今回0.65円/kWhに上昇しました。ただし、最安取引価格としては0.4円/kWhを維持しております。また、約定量については、約19,000千万kWhで約定となり、過去最大量の取引となっています。
次に、非FIT非化石証書(再エネ指定あり)の取引結果については以下のような結果となりました。
2024年度第3回入札以降、売り入札量がとても少なく、買い手入札量が増加しています。まず売り入札量が減った要因としては、大手電力会社の売入札が減少したことです。大手電力会社の売り入札の減少には、自社で発電した電気を「非化石証書」としてではなく、再エネメニューとして活用したなどが理由として考えられるでしょう。
また、買い入札量の増加の要因としては、大手電力会社を中心に買い入札への参加が増えたこと(15者から29者に増加)と1者あたりの平均入札量が2,100万kWh/者から1億9,300万kWh/者と増加したことが考えられます。そのため、約定量も少なくなっており、第4回入札では395千万kWhの取引となりました。約定価格についても第3回入札同様の1.3円/kWhでの取引となりました。
最後に、非FIT非化石証書(再エネ指定なし)の取引結果です。非FIT非化石証書(再エネ指定あり)と同様の結果となっており、売り入札量が少ないため、大半が約定されず約定量は258千万kWhという結果となりました。約定価格についても非化石証書(再エネ指定あり)と同様に1.3円/kWhで取引がされました。
ここまで、非化石証書の種類別で見ていくと、FIT非化石証書の取引数は順調に増加傾向にあります。全量トラッキングであるFIT非化石証書は、さまざまなイニシアチブへの活用も可能な場合が多いため、今後も需要は高まっていくと予想されます。
続いてFIT非化石証書の発電電源である太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスそれぞれの2024年度の第1回から第3回入札での約定率をまとめたものがこちらです。
太陽光、水力、地熱において約定率が減少しています。特に水力発電については、第1回の約定率が96%でしたが、第3回では9%という結果になっています。一方で風力については対象期間内では最も多い約定率であり、バイオマスについては、第2回から約定率を増やしています。
こちらのグラフは、各入札での発電種別約定量のうち、2010年1月1日以降に運転開始した設備の割合となっています。結果として、発電種別約定率と変化はほとんどありません。そのため約定したもののほとんどが2010年1月1日以降に運転したものであると考えられます。
バイオマスの発電の割合が第2回入札より約定率が増えておりますが、イニシアチブへの活用には注意が必要です。
2025年4月には、RE100の技術要件の改定がありました。そこで新たに「バイオマス混焼に電力の使用禁止」が追記されました。バイオマス混焼とは、バイオマスなどの再生可能燃料と石炭などの化石燃料を同時に燃焼させて発電させる方法です。この方法は、化石燃料である石炭の需要を維持させることにつながるため、混焼の禁止が基準として挙げられました。
現在は、バイオマス発電の入札時には混焼を除くことはできないため、RE100に活用するのであればバイオマス発電は外した方が安全です。
続いて、都道府県別で各発電電源の約定率を示しています。
太陽光発電の約定率について、第3回時点で最も割合が高いのは東京都であり、次いで富山県や福井県という結果になりました。一方そのほかの都道府県に関しては50%を切っています。また、最も約定率が高い東京都も含めて、すべての都道府県で第3回入札の約定率が低いという結果になっています。
続いて風力発電です。風力発電については、一部地域では約定率が100%という地域もあります。地域としては、九州地方において約定率が高いことが分かります。太陽光発電の約定率と比較すると、全地域ではありませんが、第1回から約定率が高くなっている、もしくは100%を維持している地域も。
続いて水力発電です。前項の発電電源別の約定率では、第1回が90%近くの約定率でありましたが、都道府県別で見ても、ほとんどの都道府県で100%近くの約定率となっており、ほかの発電種別以上に高い割合になっています。一方で第3回の約定率は一部地域を除き格段に低くなっていることが分かります。
続いて地熱発電です。地熱発電に関しては、第3回時点でそもそも地熱発電を実施している都道府県は12県のみとなっています。実施している地域においても、北海道や岐阜県などを中心に第1回時点では100%近くの約定率であったにもかかわらず、第3回では約定率が格段に低くなっている地域もあることが特徴として見られます。
最後にバイオマス発電についてです。バイオマス発電についても第3回目に比べて、第1回目の約定率の方が高い都道府県は多くなっております。東北地方や長崎県を除く九州地方での約定率が他地域と比較して低くなっているという結果となりました。
今回のコラムでは、非化石証書の基本的な情報から2024年度の非化石証書の取引結果を取り上げさせていただきました。特にFIT非化石証書については落札量が過去最大になっていることから、需要が高まっていることが分かります。また、第4回入札では、最高約定価格が上昇したことから、価格を上げてでも確実に落札したい企業が出てきているとも読み取れます。6月20日には、2025年度の非化石価値取引市場のスケジュールが公開されました。さまざまなイニシアチブへの対応に向けて、非化石証書を効果的に活用してみてはいかがでしょうか?
弊社では、FIT非化石証書仲介サービスを展開しております。
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CDP回答やGHG排出量算定など、環境経営に関するコンサルティングサービスの営業本部長を務めています。
<出典>
2018年5月から始まる『非化石証書』でCO2フリーの電気の購入も可能に?. (2018, Jun). 経済産業省資源エネルギー庁.(参照2025.06.20)
非化石価値取引についてー再エネ価値取引市場を中心にー. (2023. February). 経済産業省資源エネルギー庁. (参照 2025.6.20)
FIT・FIP制度. 経済産業省資源エネルギー庁. (参照 2025.06.20)
非化石価値取引について. (2025. Jun). 経済産業省資源エネルギー庁. (参照 2025.06.24)
非化石価値取引について. (2025. April). 経済産業省資源エネルギー庁. (参照 2025.07.02)
2024年度第1回FIT約定割合. 一般社団法人日本卸電力取引所. (2025.06.24)
2024年度第2回FIT約定割合. 一般社団法人日本卸電力取引所. (2025.06.24)
2024年度第3回FIT約定割合. 一般社団法人日本卸電力取引所. (2025.06.24)
Co-firing Q&A; RE100’s technical criteria update 2025.(2025. April). CRAIMATE GROUP. (参照 2025.06.25)